バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第六十話 一騎打ち

 中核都市エームスハーヴェンを攻略するべく十万人のカスパニア王国軍が迫る中、ジカイラはその軍勢の前で地面に魔剣シグルドリーヴァを突き立て、仁王立ちして対峙する。

 ヒナは馬に乗ったまま、ジカイラを見守る。

 程なくカスパニア王国軍の中から、一組の男女がジカイラ達の前にやってくる。

 カスパニア王国軍を率いる将軍ロビンと宮廷魔導師ナオ・レンジャーであった。

 二人は、ジカイラ達の前で馬から降りて対峙する。

 ロビンが口を開く。

「貴様か! ジカイラというのは! 一騎打ちを望むというその勝負、受けてやる!!」

 一方のナオ・レンジャーは、ジカイラに見惚れ、目を細める。

(鍛え抜いた肉体といい、精悍な顔立ちといい、良い男ね!)

 ジカイラが口を開く。

「オレが勝ったら、軍を退け! 良いな?」

 ロビンが答える。

「何を馬鹿な事を・・・」

 そこまで言いかけたロビンの言葉をナオ・レンジャーが遮り、答える。

「良いわよ! その条件で!! ・・・もちろん、勝つわよね? ロビン!」

 一瞬、躊躇したものの、ロビンは答える。

「お、おう! 当たり前だ!!」

 そう言うと、ロビンは武器を取り出して身構える。

 ロビンの武器は、右手に持つ柄の先に長い鉄鎖がついており、鉄鎖の先には人の頭ほどの鉄球が着いていた。

 ロビンは、右手で柄を振り上げると、鉄球を振り回し始める。

 ジカイラも地面に突き立てていた魔剣シグルドリーヴァを引き抜くと、ロビンに対して剣先を向け、構える。

 魔剣シグルドリーヴァの漆黒の刀身から妖しい光が立ち上る。

 ロビンが口を開く。

「勝負だ! 黒い剣士!!」

 ジカイラも口を開く。

「行くぜ!!」







 ヒナとナオ・レンジャーが立ち会い、中核都市エームスハーヴェンの市民達が見守り、十万のカスパニア王国軍の兵士達の目前で、ジカイラとロビンは一騎打ちを始める。

「ウォオオオ!!」 

 雄叫びを上げながら、ロビンは振り回している鉄球をジカイラに投げつける。

 ジカイラは大きく身を反らして鉄球を避ける。

 二度、三度とロビンは鉄球を振り回し、ジカイラに投げつけるが、いずれもジカイラは避ける。

 ジカイラは、ロビンを観察していた。

(腕力はあるようだが、攻撃は大振りなうえ、トロい。・・・少し出方を見るか) 

 攻撃を避けてばかりのジカイラに対して、ロビンは煽り始める。

「おらおらぁ~。どうした? 黒い剣士! 避けてばかりかぁ? あぁん?」

 一見、ロビンが優勢に見えるため、カスパニア軍の兵士達が歓声を上げ始める。

 ヒナは、一騎打ちで戦うジカイラを見詰めて祈るように呟く。

「ジカさん・・・」 

 ジカイラは冷静にロビンの攻撃を分析する。

(此奴は右側からしか攻撃してこない!)

 ジカイラが反撃に転じる。

 ジカイラは、ロビンが投げつけてきた鉄球を魔剣シグルドリーヴァで打ち返す。

 鈍い金属音が響き渡る。

 投げた鉄球を打ち返された事にロビンが驚く。

「う、打ち返しただと!?」

 二人の一騎打ちを離れて見ているエームスハーヴェンの市民達や、カスパニア軍の兵士達も驚き、ざわめき出す。

 ロビンは、更に激しく鉄球の投げ付けを繰り返す。

「クソッ!! ウラァアアア!!」

 ジカイラは、繰り返し投げつけられる鉄球を、全て魔剣シグルドリーヴァで打ち返す。

 鈍い金属音が何度も戦場に響き渡る。

 ナオ・レンジャーはジカイラの戦い振りに、ますます見惚れる。

(・・・凄い。まだまだ余裕がありそうね)

 意を決したジカイラは、魔剣を低く構え、腰を落とすと深く息を吸い、渾身の力を込めて魔剣シグルドリーヴァでロビンが投げつけてきた鉄球を打つ。

 ジカイラの豪腕で振り上げられた魔剣シグルドリーヴァがロビンが投げつけてきた鉄球を砕く。

 ロビンを含む、それを見ていた者達が驚愕する。

「剣で鉄球を打ち砕いただと!?」

 ジカイラは魔剣を低く構え、大きく間合いを踏み込むと、再び渾身の力を込めて魔剣シグルドリーヴァを振り上げる。

 魔剣シグルドリーヴァの峰がロビンの側頭部を捕える。

「ごあっ!?」

 鈍い音と短い嗚咽と共にロビンは意識を失い、白目を剥いて後ろに倒れる。

 気絶して倒れたロビンは、仰向けにひっくり返った蛙のように、手足をピクピクと痙攣させていた。

 ジカイラは、右手に魔剣シグルドリーヴァを持つと、高く掲げる。

(勝った!!)

 ジカイラとロビンの一騎打ちの結果に、エームスハーヴェンの市民達が歓声を上げ、カスパニア軍の兵士達は落胆の声を漏らす。

 ヒナが乗っていた馬から降りて、ジカイラのところへ走り出す。

「ジカさん!!」

 そう叫ぶと、ジカイラの元に駆け寄ったヒナは、その首に抱きついてキスする。







 二人の一騎打ちの結果にナオ・レンジャーは高笑いして、ジカイラに歩み寄る。

「あーはっはっは! ・・・男だねぇ!!」

 ナオ・レンジャーはヒナを無視して、両手を前で合わせると、二の腕で胸を押し寄せ、谷間を強調する姿勢を取り、うっとりとジカイラの顔を見上げる。

「どうだ? その貧相な小娘から乗り換えて、『私の男』にならないか?」

 露骨にジカイラを誘惑するナオ・レンジャーに対して、ヒナが敵意を剥き出しにして睨み付ける。

 ジカイラが口を開く。

「ワリィな。オレはコイツの()()()()()()()が気に入ってるんでな」

 ヒナが赤面してジカイラを小突く。

()()()()()()()()って! 沢山の人が聞いてるのよ!!」

 ナオ・レンジャーは不敵な笑みを浮かべる。

「なら、腕ずくで私の男にしてやる!!」

 ヒナが、ジカイラとナオ・レンジャーの間に割って入る。

()()()()()()()の年増女は、お呼びじゃないわ!!」

 ジカイラは苦笑いしながら呟く。

()()()()()()()って・・・」

 ヒナに侮辱された怒りで、ナオ・レンジャーの額に血管が浮き出る。

「この私が・・・。私が年増だと!? 殺してやる!! 小娘が!!!」

 ヒナがジカイラの方を振り向いて告げる。

「ジカさんは、下がってて!」

「・・・判ったよ」

 ジカイラは、数歩、後ろに下がる。




 ヒナとナオ・レンジャーが互いに睨み合って対峙する。

 バレンシュテット帝国の『氷の魔女』と、カスパニア王国の『宮廷魔導師』の一騎打ちが始まろうとしていた。

しおり