第四十五話 心の闇
ジカイラは、ケニー、ルナと宿屋一階の食堂で食事を取っていた。
ジカイラ自身、ダークエルフとの戦闘以来、ティナの容態の心配と夜の見張りで、二日間ほど殆ど一睡もできずに居た。
傍らで一緒に食事するケニーとルナの目にも、ジカイラの憔悴は明らかであった。
ケニーが口を開く。
「ジカさん。少し休んだら? かなり疲れているのが判るよ」
ルナもジカイラを心配する。
「ルナもそう思う。帝都からラインハルトさん達が来るから、それまで・・・」
言い掛けたルナの言葉をジカイラが遮る。
「そういう訳にもいかないだろ? ラインハルトに会わせる顔が無い。それに此処は敵地同然だ。街の外に比べたら安全だけどな」
ジカイラは、左腕の肘をテーブルに乗せて額を抑えながら食事を続ける。
(とは言ったものの、こいつらの言う通り、少し休むか? 今は、体力的にもかなりキツイ。何かあっても、この状態で対応しきれるかどうか・・・)
ジカイラが考え事をしながら食事していると、二階からヒナが慌てて降りてくる。
ヒナは、頬を赤らめて恥じらいながら、ジカイラの耳元でヒソヒソとティナの様子を伝える。
ラインハルトを呼びながら自慰に耽るティナの様子を聞いたジカイラは、目が点になる。
ジカイラは、大きくため息を吐く。
「ティナがその様子じゃ、ラインハルトにも会わせられないだろう? ・・・参ったな」
--夜。
ジカイラ達が夕食を終えた頃、
ラインハルト、ナナイ、ハリッシュ、エリシス、リリーの五人であった。
「皆さん! お久しぶりです!!」
場の空気を読まないハリッシュが、いつもの調子で明るく挨拶する。
ラインハルトは、憔悴しきったジカイラを見て、全てを悟ったようだった。
「もう大丈夫だ。ジカイラ、後の事は私達に任せて少し休め。ヒナもだ。ティナの事は心配無い。二人とも疲れ切っているのが判るぞ」
ヒナもダークエルフとの戦闘以来、ティナの介抱で、ほとんど寝ていなかった。
ジカイラが口を開く。
「すまない。大切な義妹を預かっておいて、このザマだ。・・・お前に会わせる顔が無い」
謝罪するジカイラにラインハルトが答える。
「ティナは、自ら望んでこの旅に出た。私もそれを許した。気にするな。お前の責任じゃない」
そう言うとラインハルトはジカイラの肩に右手を軽く置き、二階のティナが居る部屋に向かう。
「ラインハルトさん! これ! ティナの部屋の鍵!!」
ヒナが慌てて部屋の鍵をラインハルトに渡す。
ラインハルトがヒナを労う。
「ありがとう。世話を掛けたね」
ヒナがラインハルトに答える。
「私も行く!」
ラインハルト、ナナイ、ハリッシュ、ヒナ、エリシス、リリーの六人は、階段を登って二階のティナの部屋に向かう。
六人は、鍵を開けて、ティナの部屋に入る。
自慰で何度も性的絶頂に達したティナは、事も無げに穏やかな寝息を立てて眠っていた。
ラインハルトがベッドに腰掛けて、優しくティナの頭を撫でる。
「・・・ティナ」
ハリッシュがティナの頭に妖しく輝く
「コレが例の・・・?」
ヒナは頷いて返す。
ハリッシュは、ティナの頭の
「
しばしの沈黙の後、ハリッシュが口を開く。
「これは・・・『呪いの
アイテムの名前を聞いたエリシスが口を開く。
「『呪いの
ラインハルトが驚いてエリシスに尋ねる。
「エリシス、このアイテムを知っているのか?」
エリシスが答える。
「ええ、少し。昔、バレンシュテットの宮廷でも使われた事があるのよ。一人の騎士に想いを寄せた二人の貴族令嬢が居て、一方の貴族令嬢が恋敵を陥れるため、舞踏会の場で恋敵にその
ナナイが尋ねる。
「それで?」
エリシスが続ける。
「その
ラインハルトが苦々しく口を開く。
「・・・そんな物をティナに」
リリーも口を開く。
「こんな純情そうな娘に、エゲツ無い事をしますね」
エリシスが続ける。
「呪いの
ラインハルトがエリシスに尋ねる。
「別の方法って・・・?」
エリシスが答える。
「この娘の『心の闇』を取り除くのよ」
ラインハルトが再びエリシスに尋ねる。
「ティナの『心の闇』って・・・?」
エリシスは、首を横に振る。
「陛下、それは私には判らないわ」
黙って話を聞いていたヒナは、言うべきかどうか迷ったが重い口を開く。
「ティナは、ずっとラインハルトさんに想いを寄せて、抱かれたがっていたの」
ハリッシュ、エリシス、リリーなど、ティナの秘めた恋心を知らない者達は、ヒナの言葉に驚く。
中指で眼鏡を押し上げる仕草をした後、ハリッシュが呟く。
「それは・・・。兄と義妹ですよ?」
エリシスは冷静に話す。
「この娘の『心の闇』は、兄である陛下に抱かれる事で取り除かれる」
エリシスの言葉にナナイは絶句する。
「そんな・・・」