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第四十話 一斉摘発

--翌日。

 ラインハルトの命により、ヒマジン率いる帝国軍がエンクホイゼンに到着する。

 帝国軍とエンクホイゼンの戦力では、圧倒的な戦力差があるため、帝国軍による街への進駐は滞りなく行われる。

 デン・ヘルダーからエンクホイゼンに流れ込んでいた傭兵達に対して、再び帝国軍により退去勧告が出され、多少のトラブルはあったものの、傭兵達は街から退去して行った。





 ジカイラ達は、領主の城の謁見の間に居た。

 帝国軍の兵士が伝令にやって来る。

「報告します。倉庫街をくまなく調べましたが、秘密警察の痕跡は、発見出来ませんでした」

 ラインハルトが答える。

「そうか。ご苦労だった」

 ジカイラが軽口を叩く。

「あいつら、逃げ足は速いからな」

 ラインハルトは、領主の椅子に腰掛け、肘掛けに両腕を置いて皆に話す。

「もう既に別の街へ逃げたという事だろう。シンジケートについては、ナナシがジェファーソンから情報を引き出すまで、進展は期待できないといったところか」

 ジカイラが諦めたように答える。

天使の接吻(エンジェル・キス)の仕入元や流通経路、製造拠点などの必要な情報は、ジェファーソンが持ったままだ。現状は、まぁ、そんなところだろうな」

 傍らで聞いていたナナイが口を開く。

「けれど、麻薬組織のジェファーソン・シンジケートを直接攻撃して叩けた効果は大きいわ。首領のジェファーソンは捕らえたし、麻薬組織の構成員も殆どは始末できたから、麻薬組織としての活動は、もうできないと思うわ」

「確かにそうだが・・・」

 ラインハルトは答えたが言葉を濁した。

 ジカイラが助け船を出す。

「肝心の革命党と秘密警察の足取りは、まだ掴めていない。奴等は逃げ足が速い」

 ラインハルトが苦笑いしながら答える。

「奴等にとどめを刺さないとな」

 ジカイラは不敵な笑みを浮かべる。

「ああ。残る中核都市は、エームスハーヴェンだけだ」

 ヒナは、ジカイラ、ラインハルト、ナナイのやり取りをジカイラの傍らで聞いていた。

 ヒナも、ティナも、その場にナナイが居ると、どうしても気後れしてしまう。

 ヒナは、ユニコーン小隊の頃から落ちこぼれである自分に負い目を感じ、ずっとそうであった。

 ケニーもルナを伴って謁見の間に居たが、元々、大人しい性格であるため、自分から主張することは少なく、皆の話を頷いて聞いていた。

 ケニーが珍しく口を開く。

「孤児院の子供達は? 彼らの今後は?」

 ラインハルトが答える。

「帝都に新しく孤児院を建設して、そちらへ移って貰うつもりだ。私やナナイの目の届くところのほうが良いだろう。経済的な事は心配しなくて良い」

 ラインハルトの言葉を聞いたケニーとルナが安堵する。

「良かった」 

 ラインハルトが口を開く。

「この街は、ジェン大佐に任せて、私とナナイは一旦、皇宮に引き揚げる。ジカイラ、引き続きエームスハーヴェンの探索を頼んだぞ」

 ジカイラが答える。

「判った。任せておけ」

 ラインハルトとナナイの皇帝夫妻と、帝国四魔将のアキックス、エリシス、その副官のリリーの五人は、エリシスが作った転移門(ゲート)を通って皇宮へ帰って行った。

 ラインハルト達を見送ると ジカイラ達は街の大通りを宿屋へと戻って行った。







 ジカイラ達がエンクホイゼンの大通りを歩いていると、街の各所で帝国軍によって、人身売買、麻薬取引などが一斉に摘発され、取り締まりが行われている様子が見て取れた。

 倉庫から帝国軍によって押収された麻薬や麻薬原料が樽詰めされ、通りの荷馬車に積み込まれていく。

 摘発され逮捕された麻薬商人や奴隷商人は手枷を付けられ、鉄格子付きの馬車に乗せられていく。

 奴隷商人によって鎖に繋がれていた女の子が帝国軍によって解放され、毛布を羽織って馬車に乗り込んでいた。

 取り締まりの様子を見ていたジカイラが軽口を叩く。

「おー、おー。街の大掃除が始まったようだな」

 ヒナが答える。

「これで少しは世の中が良くなるかしら」

 ジカイラが遠い目をして答える。

「良くなるさ。貧困から犯罪に走る孤児を救い、麻薬組織を叩き潰す。奴隷商人から奴隷として囚われている人々を解放する。『貧困』や『麻薬取引』、『望まない奴隷労働』なんて無くなって良い。ラインハルトは間違っていない」

 言い切るジカイラの横顔を見て、ヒナは少し誇らしげに告げる。

「そっか」

 ケニーも口を開く。

「僕達がやってきたことは、世の中のためになっているんだね」

 ジカイラが呆れたように答える。

「今更、なにを。そんなの当たり前だろ」 

 ジカイラの言葉を聞いたケニーとルナは嬉しそうに笑顔を見せる。

 ティナが意気込んで話す。

「さぁ! 次はエームスハーヴェンね!!」

 ジカイラは、面倒くさそうに話す。

「此処から幌馬車で北に二日ってところだな。今日は必要なものを買い出して早めに休んで、出発は明日だ」






 皆で歩きながら話していると、ジカイラ達は宿屋に到着する。

 既に夕刻に近かったが、ヒナ、ティナ、ルナの女の子三人は食料品などの買い出しに行き、ジカイラとケニーは宿屋で休んでいた。

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