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308章 おとなのじじょう

 マネージャーは頭を下げる。

「ミサキさん、すみません・・・・・・」

「いえいえ、気にしてないですよ」

 真理の立場であったなら、ふざけるな、こんなやつを連れてくるなと考える。超一流の集まりの中に、素人が参加するのは屈辱である。

「ミサキさんの出演を条件に、大手スポンサー契約を獲得できます。柳俳優団の人員育成にあたって、絶対に欠かせない資金になります」

 ミサキを出演させたいというより、スポンサー契約を勝ち取りたい。彼女の本音はそこにあるような気がした。

「一流の看板役者を生み出すために、5万ペソ以上の育成資金が必要です。人を育てるためには、莫大な投資をしなくてはなりません」

 莫大な投資をしても、回収できるとは限らない。人材育成はハイリスクハイリターンといえる。

「真理さんに限らず、舞台出演に反対している人は多いです」

「反対者が多いのに、舞台出演を押し切ったんですか?」

「はい。大人の事情がありますから」

「おとなのじじょう」、わずか8文字に社会は凝縮されている。理屈でわかっていても、嫌なものを感じざるを得なかった。

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