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7話 赤の他人には白い目で見られたけど、クラスメイトには温かな視線で僕を迎えてくれた

家族会議が終わった後、僕の誕生日パーティーが盛大に催された。[神の死らせ]が発せられた以上、僕がいつ死んでもおかしくないからだ。今年の僕の誕生日プレゼントは、なんとロングソードだった。本来、学院入学用に用意されたもので、今回の事情を考え、父から手渡された。これは魔物の骨から製作されたもので、硬度は鉄製の剣より少し落ちるけど、安価で軽く扱いやすい代物だ。初心者用の剣として、重宝されている。僕はこのプレゼントを見て、飛び上がるほど喜んでしまった。

翌日、僕はギフトの制御や魔法習得に専念し、1日を過ごしたのだけど、父は冒険者ギルドへ行き、僕の事情を話した上で、息子が明後日から冒険者としてお世話になることを伝え、宿泊できる宿屋を紹介してもらい、既に明日の夕方からの宿泊を予約したらしい。僕は夜になって、その事を聞かされ驚かされたけど、家族がここまで親身になってくれるとは思わなかったので、絶対不幸に打ち勝つと心に誓う。

更に翌日、訓練学校へ足を運ばせると、校門に入った時点で注目を浴びた。

「おい、あいつだろ? 神の死らせを受けたっていうクロードは?」

「ああ、よくここへ来れたもんだよ。不幸の呪いだろ? どっかの山の中で籠ってりゃあいいのに」

「本当よね、もしかして私たちに不幸を移そうとしているんじゃないの?」

どうやら、僕のギフトと共に、神の死らせの情報も中途半端に漏れていたようだ。しかも、一部の人々がきちんと意味を理解していないせいで、おかしな方向に進んでいる。そんな不安そうな目で見ているのなら、先生に質問して、正確な情報を掴んでこいとい、この場で言いたい。

そこら中から嫌な視線を感じる中、僕は職員室ヘ行き、担任のロベルト先生に事情を詳細に話してから、2人で教室へ向かう。正直、クラスメイトたちにもなじられたら、かなり傷つくと思い、中へ入ることを躊躇っていると、先生が『大丈夫、私とマーニャで事情を説明しているから』と優しく微笑んでくれたこともあり、僕は覚悟を決めて中へ入ると、クラスメイトたちは温かな目で僕を迎えてくれた。学校内で騒がれないよう、僕が改めて、自分の口から祝福の儀で起きたことを赤裸々に語ると、ロブスを含めたクラス全員が教会の司祭様に対して怒りを顕にし、僕の休学届にも納得してくれた。

ただ、いつまでも学校に滞在していると、他の人たちが授業に集中できないと思い、僕は到着早々に、ロベルト先生にお願いして、ギフト登録とロブスとの模擬戦を申し出た。かなり特殊な事情だったけど、父の計らいもあり、1時限目の授業に僕たちの模擬戦が入れられることになった。


○○○


ここは、訓練学校の校庭内にある室外訓練場だ。

この学校には、様々な職業を目指す卵たちが勢揃いしており、放課後になると戦闘職を目指す生徒たちによる模擬戦が執り行われる。皆は毎日訓練場の掲示板に貼られている模擬戦予定表を見て、面白そうな組み合わせなら、大勢が押しかけてくる。どういうわけか、僕とロブスの模擬戦は人気が高く、見学人も多い。一度、マーニャや他の友達にも聞いたけど、皆はどうやらロブスのギフトによる攻撃手段と、僕の突飛な回避行動と、そこから繰り出される攻撃方法に興味を抱いているらしい。でも、今回に限り、見学人は僕のクラスメイトだけだ。

僕の正面には、訓練服に着替えたロブスがいて、早く戦いたいのか、身体をウズウズさせている。

「お前が、こんな大胆なことをしてくるなんてな。正直、驚いているよ。普通は自分の死を恐れて、俺との模擬戦なんて無視して、学校を休むぞ」

「あはは、両親からはそれも提案されたけど、僕が断った。[神の死らせ]なんかに、いちいちびくついていたら、僕は何も出来なくなってしまう。ただ、乗り越えられるか不明な以上、不幸が来る前に、君とはギフトありの模擬戦をしたかったのさ」

僕の答えに、ロブスは呆れた顔をする。

「は、その気概、気に入ったぜ。やっぱり、俺とお前は何処か似ているな」

この2日間、僕は自分のギフトについて色々と調査したけど、壁の出現以外での効果を見出せる事ができなかった。でも、家に保管されていた資料のおかげで、強度面に関しては解決できた。ギフトの効果は所持者の心の強さに依存する。つまり、絶対的な自信を持てば、僕の壁の強度も上がるということだ。実際、邸を守る警備の騎士にお願いして、壁に魔法や剣による攻撃を実行してもらったら、それらを防ぐことに成功している。それでも、不幸な事故が起きないかという不安もある。

「ロブス、改めて確認するけど、今の僕は、[いつ][どこで][どういった不幸]が訪れるのか不明だ。この模擬戦で、事故が起きる場合もある。それでも、君は僕と模擬戦をやりたいか?」

僕の言った言葉に、ロブスは鼻で笑う。

「クロード、俺たちは騎士を目指すんだぞ? 事件に巻き込まれる場合もあれば、事件に突っ込んでいく場合もあるんだ。神の言う不幸程度に、いちいちビビっていられるか!! 今日のクロードを見て怯えている戦闘職希望の軟弱野郎共は、今すぐ転職をお薦めするね」

辛辣な言い方だけど、ロブスの言っていることは正しい。騎士の場合、突発的に起こる事件にだって遭遇しやすい。怖いのなら、今のうちに引き返し、目指す職業を変えるべきだろう。ただ、彼はいつも相手の尊厳を見下す言い方で忠告するから、皆に敬遠されてしまう。そこを気をつければいいのに、僕が注意しても直そうとしないんだ。

「了解だ。いつ復学するかわからない以上、僕にとって今しか模擬戦の機会がない。どうやら君の言った通り、僕と君は似たもの同士のようだ」

これは、ロブスの闘争心を少しでも掻き立てるために言ったものだ。あいつは僕のライバル、不幸を乗り越えても、騎士を諦めざるをえない怪我をする可能性だってあるから、ここで真剣に戦いたい。

「いいね~、だからお前との戦いはやめられないのさ。他の奴らと違い、クロードと戦うと、俺自身の強さが少しずつ引き上げられているのがわかる」

それは喜んでいいのか?

「僕も同じ意見だよ。君と戦うことで、多くのことを学ばせてもらっているからね。いつも通り、[相手に攻撃を1度当てたら勝利]でいいか?」

訓練学校である以上、絶対に生徒を死なせてはいけないという制約があるため、模擬戦では木製の武器が使用される。僕たちの武器は木剣で、今回担任のロベルト先生が審判となってくれるから安心だ。ギフト-模擬戦の場合、危険度も増すので、相手に1本取ったら勝利となっている。ただし、どちらかが即死性のある攻撃を放った場合に限り、先生が強制的に戦闘を止める手筈にもなっている。

「ああ、いいぜ」
「準備はいいようだな。両者、白線の敷かれている位置へ移動しろ」

僕とロブスは、無言のままロベルト先生の指示に従う。

「始め!!」

僕とロブスの勝負が始まった。

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