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4話 女神様、もう少し違った方法で教えて下さいよ

フォルサレム王国の貴族の子供たちは、12歳までに自分の目指す職業を見つけなければならない。何故なら13歳になると、学院へ入学し、在籍する学科を決めないといけないからだ。僕の場合、8歳の時点で素質を認められ、騎士になる夢を見つけた。マーニャは9歳で回復と補助の素質を認められ、治癒士になる夢を見つけた。早い段階で目指すべき職業を見つけた子供たちは、10歳から訓練学校へ入学することができる。12歳まで基礎を徹底的に鍛えられ、年度末に学院の入学試験へ望む。僕の場合、騎士の訓練生として訓練学校へ通っており、そこでロブスやクラスメイトたちと模擬戦をしているのだけど、ギフトを贈呈されて間もないのに模擬戦を申し込んでくるとは思わなかった。僕の答えは、既に決まっている。

「断るよ」
「な!?」

ロブスもお供2人も驚いているけど、断って当然だろうに。

「あのさ、僕は贈呈されたばかりで、碌に制御できないんだ。君もギフト名を知ったのなら、その効果も大凡わかるだろう? 制御をミスって、君の真下に高さ30メートルの脆い壁を出現させたらどうなる? 高さに到達した途端、ペキンと折れてしまったら、君は地面に叩き落されるんだぞ?」

消費魔力を考慮しないのなら、そういった壁を作ることも可能だ。まあ、高さに到達する以前に、ロブスの体重に耐えきれず、壁が出現した途端にペキンと折れると思うけどさ。ロブスの方は、嘘で言い放った30メートルの高さから落下する様を想像したのか、顔が真っ青になる。

「それは…やばいな。だが、大した自信だな。この場で、自分のギフトの効果の一部を俺に言っていいのか?」

今戦えば、僕は100%絶対に負ける。
あんな脆弱な壁で、ロブスのギフトに勝てるわけがない。

「自信? それは違うよ。僕は、君と公平に戦いたいのさ。ギフト使用可の模擬戦で、君とはこれまでに3度戦っている。僕の全戦全敗だけど、君のギフトの効果の一部を知っているからね」

彼の性格はともかく、彼自身の強さは本物だ。あのギフトに打ち勝つには、こちらも対策を練らないといけない。

「僕も、ロブスと戦いたい気持ちはある。今日明日の祝日でギフトの力を確認するから2日後の放課後に模擬戦をしよう。学校に行ったら、ギフトの登録は必須事項だし、未登録のまま無断で模擬戦を行い、それが発覚すると、2人揃って停学処分になるぞ」

訓練学校でもその先の学院でも、1週間(7日)のうち、2日は必ず休みがある。勉強や鍛錬も重要だけど、時には身体を休ませなければならないという法律が、この国にある。今はその休み期間、この間にギフトの力を少しでも向上させる。

「ち!! それくらい知っているが、流石に両親にバレるとやばいな。いいだろう、2日後の放課後に模擬戦だ!!」

ロブスの訓練学校での座学の成績は中間くらいだけど、実技はいつも学年でトップ3に入るほどの実力者だ。僕と同じ騎士志望でも、その動機が『戦闘で自分の存在価値を示したい』で、性格が好戦的なせいか、実技の成績が高い同学年の学生たちと頻繁に模擬戦を行なっている。ギフトなしでの僕との戦績は、12勝10敗と僕が勝ち越しており、ギフトありでの模擬戦だと、僕がギフトを持っていないこともあり、0勝3敗と僕の全敗だ。そうは言っても結構接戦による敗北なので、僕がギフトを入手したら、必ず模擬戦を行う約束をしていた。

「ああ、楽しみだよ。次は負けない!!」
「は、言ってろ!! 次も、俺が勝つ!!」

ロブスは納得したのか、僕や警備員たちに一言も謝罪することなく、お供2人を連れて帰っていった。強気で礼儀に欠ける難儀な性格を直せば、ハンサムなのだから女子にモテるだろうに、残念な奴だ。

「相変わらず、君は口が達者だな。あのロブスを怒らせることなく、難癖を言われることもなく納得させるのは、クラスの中でも君だけだとマーニャ様から聞いているぞ?」

ロブスの性格の悪さは、この界隈じゃあ有名だから、当然護衛のマグヌスさんも知っている。

「あははは、あいつとは訓練学校で2年間付き合っていますから、その性格も把握していますよ」

あいつは、強い相手と戦いたいだけなんだ。彼がどうしてそこまで戦闘を好むのかわからないけど、僕自身も【強くなりたい】という気持ちもあるから、何らかの怪我を負っていない限り、奴からの模擬戦の申し出は必ず受けている。その信頼性があるからこそ、勝負を先延ばしにできたんだ。

距離をとっていたマーニャも、僕の方へ歩いてくる。

「でも、どうするのよ? あんな事言って大丈夫なの? 今日と明日の訓練だけで、ロブスのギフトに対抗できるの? 私が突いただけで、ペキンと折れる脆弱性なんだよ」

そこなんだよ。あの脆弱性をどうにかしないと、100%敗北してしまう。
まずは、僕のギフトの性質を見極めないといけない。

「まずは、【壁】について調べてみる。言葉の深い意味を知ることで、何か思いつくかもしれないし、スキルや魔法、称号との連動性も……そうだ、ギフト以外でもう一つ気になることがあったんだ!!」

ギフトのことばかりに気を取られ、称号と[神の死らせ]のことをすっかり忘れていた。

「ギフト以外に、何かあるの?」

「司祭様の一言のせいだと思うけど、僕に【不運な祝福者】という称号が付いたんだ。どういうわけか赤く点滅しているし、それを確認した司祭様も[神の死らせ]と叫んでいた」

「何だと!?」

大声を上げたのはマグヌスさんだけど、珍しく動揺している。
[神の死らせ]って、そんなにまずいものなのか?

「クロード、点滅しているのは称号なんだな?」

何故か鬼気迫る表情で、僕を問い詰めてくる。
ここまで動揺するマグヌスさんを見るのは、初めてだ。

「はい、そうです」

彼は、何を知っているんだ?

「クロード、よく聞け。ステータス内に現れる赤い点滅は、女神様からの警告だ」
「け、警告!?」

今日、祝福を受けたばかりなのに、僕は神に嫌われたのか?

「ああ、ステータスの項目が赤く点滅する現象を、[神の死らせ]というんだ」
「司祭様の呟いていた言葉…あれが警告を指している?」

[虫の知らせ]なら、僕も知っている。〈何かよくないことが起こる〉という一種の予知に近い意味を指していたはず、[神の死らせ]と何が違うのだろう?

「この世界をお造りになった女神シスターナ様は気まぐれなお方で、時折下界を見ては、大きな不幸が近日中に訪れる人物に対し、その危険性をステータスに表示させる。それが、赤の点滅だ。俺の知る限り、その間隔は徐々に短くなっていく。最終的に、ステータスウィンドウ全体が赤く染まると、その者はその日のうちに何らかの大きな不幸が訪れ、最悪の場合は死もありえる。[虫の知らせ]と違い、何処にいようとも100%確実に起こるから、我々も文字を変えて、[神の死らせ]と読んでいる」

「警告の仕方がおかしくないですか!? 最早、完全に呪いですよね!!」

女神様、僕の身に不幸が起こるのなら、もう少し違った方法で教えてくれませんか? 今聞いた限り、ステータスを見る度に赤い点滅があれば、嫌でも目につくし忘れることもないだろうけど、夢に出てきそうだ。せめて、予知夢とかでどんな災いが襲ってくるのか教えてくれればいいのに。

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