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第3章の第40話 人類の選別! 苦渋の選択(後編)


【アンドロメダ王女の宇宙船】
クコンちゃんの手には、その南極大陸で回収された、親の遺品、家族3人で取った『記念写真』の姿があった。
あるべきところに帰り、少し喜んでいるようだった。
「……クコンちゃん」
「……」
「……ぁ……っ」
アユミちゃんも何度か声をかけようとしたようだけれど、何だか言い難そうだった。
だから、あたしから声をかけて。
「なにぃ?」
「……ッ、あのね……、……っ、大丈夫?」
「……」
「辛いよね? いきなり親が死んで……。……わかるよ、あたしがそうだから……」
「……」
「……」
「……」
(ち、沈黙が重い……ぃ!?)
親をいきなり失ったことでクコンちゃんは、その口を堅く閉ざしていた。
これにはアユミちゃんも、取り入る島がない……っ。


――とここでようやく、
シャルロットさんを先頭にクリスティさんを連れて帰ってきた。
ここでヒースさんはシャルロットさんに言葉を投げかける。
「長かったな……お手洗いか?」
「――……」
――これにはシャルロット(あたし)さんも黙りつつ、これには嘆息する思いだ。
「失礼ね。女の子の身嗜みは長いのよ。……ねえ、クリスティさん!」
「――………………」
――これにはクリスティ(あたし)も思い悩んでいた。
シャルロットさんがあんな事言うからだ。
でも、ホントにあたしはどうすればいいの……ッ。
いったい、裏側で何が行われていたのか、今は知る由もない――


☆彡
――とここでモニター画面に変化が現れる。
現れたのは、ヒースさん達と同じアクアリウス星人だ。
『――アンドロメダ王女様聞こえているでしょうか!?』
「! うむ、聞こえるぞ!」
『私は、ソーテリア星第8部隊ものなのですが……。
通達にあった、恵ケイさんのホテルから、そのご両親と従業員達、そして多くの子供達と、その亡骸があったと思しき棺桶を無事回収しました!」
「うむ!」
「冷凍機能と反重力システムを備えた棺桶の中身を、こちらで安全確認のために調べましたところ……。
報告にあった通り、地球の土と野菜と果物、あといくつかの種と思しきものを確認を取りました!
怪しいものは、何も入っていないことを、連絡させていただきます!!」
「うむ!」
わらわは、左様か、という面持ちで頷き得る。
「ただ、子供たちの言い分を聞くには、チアキさんと名乗る少女だけは、この船には乗っていません……!!」
「な・なんじゃとーっ!?」
これには周りにいる一同、「えええええ!?」と驚嘆した。それは自殺行為に等しいからだ。
「なぜじゃ!? なぜ、乗っておらん!?」
「えーと……。恵さんのご両親の方が語るには、迎えの人がきて、その人と一緒にどこかに雲隠れした後らしいのです」
「なっ……!?」
「そして、また、どこかで会いましょ……と」
「……」
とその連絡を行うアクアリウス星人の後ろで、子供達が珍しがり、騒ぎ出してきた。
「うわっ!? 何だこれ!? すげ――っ!!」
「へぇ~宇宙船の中って、こうなってたんだぁ」
「おもしれ~何だこれ!?」
初めての宇宙船で、興味津々の子供達、いろいろと宇宙船の中を物色しだす。
「ああっ!! こらっ下手に触るなッ!!」
「何だこれ?」
「アアアアアッ!!!?」
ポチッとな。
その瞬間、画面上が大きく、グワングワングワンと揺れる揺れる揺れる。
それはこの区画の回転だった、
遠心力の作用で、子供たち全員が壁側に叩きつけられる――ベシン、ベシン、バシンッ
さらに室内が赤くなり、重力場が全体にかかる。
「ヒギ――ッ!! 何だこれ――重――!!」
「なに――!? 目が回る――!?」
「何やってんだお前達――!! それはこの区画を回転させるシステムと重力場発生装置だぁあああああ!!!」
「「「「「助けて――っ!!!」」」」」
ブツン……とあちらから回線が途切れたのだった……。
これには一同、ズーーン……と気分的に暗くなっていた……。
「何やってんのよあの子達……」
「フツー宇宙船のものを、面白がって物色するかぁ……」
クコンちゃん、ヒースさんと述べて。
思い切り嘆息してしまうアンドロメダ王女様たちであった――ハァ……


☆彡
――そんな時、ピコーンとアナウンスが入った。
『――こちらアンドロメダ星第2部隊! 長崎市のエリアで、遅れが生じていることを報告します!!」
「……え……?」
これには呆けてしまうクコンちゃん。
モニター画面が移り変わり、長崎学院に不時着している宇宙船の様子が映し出される。
前面に映し出されたのは、なんと宇宙船の前に武器を手にした民間人達がたむろしていた。
これは非常に危険な状態で、いつ、暴動事件が起きてもおかしくない。
緊迫の現場だった。
この様子を見たシャルロットさん達は。
「完全に武装警戒してるわね……」
「ああ、このまま放っておいても、自分達が自然の猛威にさらされて死ぬだけなのに……いったいなぜ……!?」
呟きを落とすシャルロットさんにヒースさん。
そこでクコンちゃんが、その映像を見て、その顔つきが強張っていく。
「まさか……! あ、あの場所は……あの人達は……ッ」
そう、それは見覚えがある場所で、見覚えがある人達だった。
そう、ここは長崎学院で、そこで避難民生活を送っていた長崎学院の関係者達のご家族だった。
その人達の着ている衣類には、鋭い爪痕と燃やされた跡が残り、火傷の傷が疼いていた。
やったのは他でもない、レグルス隊長だ。
あれは目に見えない恐怖そのものだ。
いきなり落雷が落ち、瞬く間に血飛沫上がり、炎上していく人達。
あたしの見ている前で、直線状にいた人達は奥から、呻吟の顔を上げて倒れかかっていった……。
あの時、あの場にいたクコン(あたし)は、そこで意識を手放し、その後を知る術がない……ッッ。
「……ッ」
(きっと痛みの声が上げる人達が続出したはず……ッ!! あたしが知らないだけで……ッッ!!)
そこには阿鼻叫喚の現場が広がる。
顔見知り程度の少女がいきなり拉致誘拐されて、現場には大量の怪我人と火傷を負った人達。
しかもその少女は、その後、拉致誘拐された挙句、寒空の下で下磔にされて、火あぶりにされている。
宇宙人は怖い連中だ。信用してはいけない。
そんな感情が、恐怖が心に巣くい、自然、その手に武器を持ってもなんらおかしくはないのだから。
「あぁ……っ」
(どうしよう!? どうすればいいの!?)
「おいおい、何かここだけ、特に警戒度が強くないか!?」
クコンちゃん、ヒースさんと述べて、難民たちの大移動の難しさを伺わせる。


――そこで見たものは暴動前の光景だ。
武器を手に持った人達は、続々と集まってきていた。
それを呼び集める人もいるくらいだ。
暴動を起こす前の、前触れの人達は一様に、この寒空の下、服を重ね着していた。
だけど、この氷点下の気温の中、その手は、顔はかちこんでいた。その手は冷え切り、アカギレができて、凍傷を起こしていた。
「いっいくぞ!!」
全体に合図を出す男性のリーダー。
手がかちかんでいた。無理もない、この寒空の下では……。
「やるなら短期決戦だ!!」
コクリと頷き合う暴徒の集団。
その武器に力を込める。
その映像を認めていたアンドロメダ王女達は。
「まずいぞ!! いつ暴動が起きても不思議じゃない!!」
「完全に暴徒化してる!! 何でここだけ!?」
「あぅ……」
ヒースさん、シャルロットさん、クコンちゃんと言い合い。
ここで一同、何か知っているきらいのクコンちゃんの様子を伺う。
「「「「「んっ……!?」」」」」
「実は……アースポートで磔になる前に、レグルスに拉致られたの……」
「……」
「その前にいたのがあの場所で、レグルスが手当たり次第に燃やしちゃって……」
「……マジか……」
「あのアホ――ッ!!! とんだ置き土産を残すなでないわ――」←主犯格
「………………」
一同は思う、あなたが言えるべき立場でないと……ッ。
痛い視線が殺到す。
「~~!!」
これには王女様も気が滅入る思いだ。
だが、状況が状況だ。
何とかしないといけない……ッッ。
わらわは気分が荒れながらも考える。
一同も、何かないかと考える。
「何か手はないか……!?」
「う~ん……」
一考するヒースさんにシャルロットさん。
とそこで。
「……! あのさ、今ふと浮かんだんだけど……」
一同、クリスティさんの方を伺う。
「元はといえば、クコンちゃんが、そのレグルスってやつに拉致られたのが原因なんでしょう……!?」
「……」
「生きていることを知れば、その対応が変わってくるんじゃないのかしら?」
「「「「「あ……」」」」」
「そっか……!」
一同とクコンちゃん、その好手に気づく。
「確かに……」
アユミちゃんも頷き得る思いだ。
そして、ある好手も思いつく。
「――! これ……いけるんじゃないかしら……!? ふむふむ」
「?」
アユミちゃんが思いついた好手とは――


☆彡
――対して、
こちらの事情など知らない暴徒の集団は、決起寸前だった。
今、宇宙船から難民達を拾うために階段が降ろされている状態だ。あれが使えるかもしれない。
「……」
認める。
「……」
「「「「「……」」」」」
手を振り、こちらにお招きして、仲間達を集める。
気配を消して集まる仲間達。
「……」
武器を構える。
「……」
だが、宇宙人達側も抜かりがなく、
「「「「「……」」」」」」
屈強な開拓者たちが光線銃を持ち構えていた。
「……」
「……」
それが階段のところと階段を降りた先で待ち構えている構図だ。
「「「「「……」」」」」
「「「「「……」」」」」
どちらも、一触即発の状態だ。
「――行くぞッ!!」
「「「「「……」」」」」
「「「「「……」」」」」
「「「「「……」」」」」
「「「「「……」」」」」
コクリと頷き合う隠れていた伏兵の暴徒たち。
そこは周辺のなぎ倒されたテントの中だった。
それも1つ2つでは済まなく、何と複数の箇所に忍ばせていた。
「「「「「……」」」」」
「「「「「……」」」」」
これにはアンドロメダ星人の目に見えるタイプの宇宙人も、嫌な汗をかいていた。
だが、地球人達側は、それを知る術はない。
それがどう戦いに影響するのか。
そして、その時が切って落とされる――


「宇宙船を奪い取れ――ッ!!!」
「おおおおお!!!」
「「「「「オオオオオッ」」」」」
暴徒と化した集団が襲い掛かる。
それに対し、アンドロメダ星人の開拓者たちは。
「殺さない程度に迎撃せよ――ッ!!」
その手に持った光線銃を発砲した。
これは自己防衛のためであり、正当防衛ともとれる。
光線銃が次々と火を吹き、先頭を走っていた人達に当たる、当たる、当たる、当たる。
「うわっ!」
「ギャッ!」
「痛っ!」
「キャ!」
その暴徒と化した集団の中には、お母さんやお姉さんも含まれていた。
次々と戦闘の人達が倒れていく。
だが、暴徒の進行は止まらず前進を続ける。
その中には少なからず、まだ年端もいかない女子供も含まれていて、老い先短い空元気のご老体もいたのだった。
そんな人も参戦しているのか? と疑い深くなるが、
老い先短い事を悟っている以上、これからの人生を過ごす次の世代のために、その老体に鞭を打って、この最後の戦闘に打って出ているのが現状だ。空元気だ。
だが、そんな事はところ構わず、人数的に余裕がない宇宙人達は、光線銃を構え撃つ、撃つ、撃つ、撃つ。
当たった人から倒れていく、1人、2人、3人、4人と。
だがその時、後ろからも声が上がった。
ドンッドンッドンッ、と宇宙船の背後から奇襲を受けていた。
「クッ!」
「隊長! 後ろから攻撃を受けているようです!」
「第二分隊出陣し、これを迎撃せよ!! おっと、殺さないようにな!!」
「「「「「ハッ!」」」」」
眼に見えないエナジーア生命体で構成された第二分隊が出撃し、光速で後ろに回り、いきなり急襲劇を仕掛ける。
「うわっ!!」
「ギャッ!!」
「何だいったい!?」
「どこから攻撃してるんだ!?」
「グゲェ!!」
「これってまさか……あの日の再来!?」
「眼に見えない宇宙人か……ッ!? 物理攻撃も効かないって、最悪だ――ギャアアアアア」
炎が、水が、氷が、嵐が、雷撃が、金剛の石つぶてが、光撃が、大きな植物の根が、次々と急襲劇を仕掛け、この場をすぐに鎮圧成功したのだった。
後に残るのは、
火傷を負った人、強烈な水流激で壁に叩きつけられた人、凍傷の人、感電した人、激しく身を切り裂かれた人、光撃を受け血を流す人、大きな植物の根に叩き伏せられた人など様々だ。
これには後ろに控えていた人達も怯えながら、後ずさりし、大きくこけた。
「!?」
訳がわからない。
いったい何が起きたんだ。
外は猛吹雪が吹き荒び、手指が弛緩し、笑えるくらい震え上がっていた。
「『金剛石の剣山』ダイヤモンド・ナゥ・ツルギ(ヤマニィ・ケンザン)」
「――!!?」
なんとその倒れた男の人の目の前に、金剛石の剣山がいくつも生えてきた。それはダイヤモンドの剣山だ。
寒空の下、ギラリと輝く。
いや、それは男の場だけではなく、宇宙船の周囲を囲むように繰り出せられていた。
まるで、宇宙船にこれ以上近づくな、と言わんばかりに。
それは警告だ。禁を破れば痛い思いを味わう事になる。
「デッドゾーン……死の痛みを味わいたくない、勇なき者は近寄らないことを勧める」
「……」
それは境界線だった。
ビュオオオオオ
と猛吹雪が吹き荒ぶ。


――前面部に戻る。
後ろからの怒声が消え、鎮静化に成功したことに悟る隊長格は、小さく頷き得た。
あちらは、あいつ等に任せて問題ない。
問題は、我々が預かる前面部の方か。
暴徒の1人の若者が駆ける。
その手に持っているのは、木星のバットで数多の釘を差し込んであり、何かに叩きつけたかのような痕があり、釘の角度が曲がっている。それは殺傷力を高めたものだ。
その若者が、宇宙人の目前に迫ってくる。
「フッ」
(教えてやるか……!)
それに対して宇宙人は、光線銃をホルスターに納め、
バッと肉弾戦の構えを取った。
「……」
それは隣にいた、もう1人も同じだった。
「オオオオオッ、当たって砕けろ――ッ!!」
その人殺しを目的とした武器に、全力の力がこもる。
振りかぶって殴りつける。
だが、それよりも一瞬早く、攻撃が繰り出されていた。
その強烈な一撃が、吸い込まれるように胸部に減り込んであり、その人達を軽々と殴り飛ばした。
「――!!」
ぶっ飛んでいくその身。
体感を覚える。
後ろにも後続の暴徒たちが控えていたため、その負傷者を受け止める形で、ド――ンと後ろ手に倒れたのだった。
「「「「「うわぁあああ」」」」」
それは、まるで将棋押しの要領で倒れる。
これには隣にいた暴徒たちが驚き、
動揺が生まれる。
「――なっ!!」
「どうしたぶっ飛ばされるは初めてか地球人……!?」
言葉を投げかけるアンドロメダ星人。
これには、ぶっ飛ばされた人を見る暴徒の人達は。
「今、信じられないくらいぶっ飛んだぞ……!?」
「あ……あぁ」
「構うもんか!! 力の限り突っ込め――ッ!!」
「うっ」
「ウワァアアアアア!!!」
決死の勢いで、声を張り上げて恐怖を吹き飛ばして、突っ込む暴徒の集団。
「フッ、その気勢やよしっ!」
「どれ、もんでやろう」
構えを取り直す宇宙人。
気勢よく突っ込んでくる暴徒の集団を相手取る。
初めに男、女、子供、老人と次々と相手取り、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ、人が軽々吹き飛んでいく様は、まさに狂喜乱舞だ。
左ストレート、右ストレート、右前蹴り、回転蹴り、アッパーカットを次々と叩きこんでいく。
「うわぁ」
「きゃあ」
「ぶげぇ」
「ノホーーッ」
ハーハッハッハッ
続々と暴徒の集団を殴り、蹴り飛ばしていくアンドロメダ星人たち。
まるで近寄れない。
まるでその宇宙人たちの周りには結界が張られているのか、1歩も近づけないのだ。
宇宙人たちのその顔には、まだ余裕があり。
後続との間に空いた時を見計らって、その場で軽く小ジャンプを行う――トンッ
とそれをトン、トン、トン、トン、と小気味よく繰り返す。
その隣では、誰もいないのに、ジャブジャブ、パンチを行う宇宙人もいたぐらいだ。
この地球という星の重力の加減を、この身で感じ取る。それは楽な姿勢でとっていた。
「……フムッ……この星の重力は軽いな!」
「ああ、体が浮くように軽い!」
トンッ、トンッ、ト――ンッ
2人のアンドロメダ星人は、その小さいジャンプの周期を合わせるようにして、同じタイミングで、跳ねていた。
もうこの頃には、隣でジャブジャブ、パンチを行っていた宇宙人も、取りやめていたほどだ。


――その現場を、モニター画面を通して見ているのは、あたし達。
アンドロメダ王女様の宇宙船のモニター画面を通して、長崎学院の現状を見ていた。
「あの宇宙人強ッ!!」
「子供なんだから手加減しなさいよッ!! まだ小さいじゃない!!」
クコンちゃん、クリスティさんと怒気がこもる。
その殴られた子供は、鼻の骨でも折ったのか、痛みをこらえていたけど――その痛みを我慢できず、鼻血を流して泣きじゃくる。
えーん、えーん、えーんと。
近くにいた人が駆け寄り、何か声をかける現場も確認できたが、
ここからでは、その様子は伺い知れない。
「もう、何やってるのよ!! 宇宙人に民間人が勝てるわけないでしょ!!! 相手は訓練を積んだ開拓者なのよ!!!」
とシャルロットさんが愚痴(注意)を促すほどだ。
強さ表的にも、一般人、兵士、開拓者と経て強くなっていくのだ。
――とここで、ようやく、ある作戦が実行に移す。
発案者はもちろん、スバル君の彼女アユミちゃんだ。
「デネボラさんお願いします!」
「3人ともそこを動かないでね! 投影します!」
ヒースさんの呼びかけに、
デネボラさんが投げかけ。
機械操作を行う兵士さん達は、「投影!」と叫び、そのスイッチを押したのだ。


☆彡
一方、その現場では――
バキィ
とキツイ一発を顔面に殴られた暴徒の1人は、
よろめきながら後ろに後退し、
踏み止まって、
その殴られた部位に手で抑えて我慢する。
「~~ッゥ!!」
そのやられた仲間を見た、仲間の1人は視線を切り、こう啖呵を切る。
「――クソッ! 俺達が何したってんだ!!! ぜってーその宇宙船奪うぞ!!」
「「「「「オウッ!!!」」」」」
「シュッシュッ、ピュンパンッ!」
とその宇宙人が何もないところでジャブジャブパンチを繰り出したところで、
空気圧を起こして、
その悔しがる男性を吹き飛ばした。
それは空気圧拳だった。
「――ぐあっ!?」
何が起きたのかわからない男性は、呻吟の声を上げて、後ろに倒れかかる。
ドサッと倒れた後は、急いで身を起こして。
「いっ、今、何が起きたんだ……!?」
と何が起こったのか、まるでわからないようだった……。
ツぅ……、と鼻血が流れる。
「フフンッ」
とその宇宙人はまるで余裕たっぷりで、カモーンと掌を突き出して、指を折って、かかってこいよと促していた。
強者感がハンパない。


――その時だった。
アンドロメダ王女様からのある信号を受け取った現地の宇宙船から、光が伸びて、アユミちゃん、クコンちゃん、クリスティさんのその姿が投影されたのは。
それはホログラム映像だ。
その映像を見た、人々の反応は。
「何だ!?」
それはある作戦だった。
暴徒の集団を納めるためのもの。
『――聞いてください!! あたし達はあなた方と同じ、地球です!!』
第一声はアユミちゃん。
その投影されたホログラム映像は、この現地だけではなく、
宇宙船が派遣された各エリアで、同じように投影されていた。
日本、アメリカ、カナダ、モス国、スイスと世界各所で同時に。
『あたし達は、あなた方と同じ『地球人』です!』
『あたしはクコンと言います! ……あたしの顔を覚えている人もいるでしょう……!?』
「!」
それは諭すような言葉だった。
これには、現地の人達にも反応が見られた。
見覚えがあったからだ。少女が無事であることを知る。
自然、その握りしめていた武器に迷いが生じる。
『あたしの名は、アユミといいます!』
にっこり、笑みを浮かべるアユミちゃん。
『同じく、あたしはクリスティよ!』
えっへん、と自慢するように胸を突き出すお姉様。乳波が起こる。
これには少女達も、その目線を心なしか、おっぱいに向ける。
けど、今ばかりは、この現場を納める事が第一優先なので、気持ちを切り替える。
『『『皆さんよく聞いてください!!!』』』
アユミちゃん、クコンちゃんの声質が重なる。
出遅れて、クリスティさんも声を重ねて言うが、それは些細な事だ。
『もう間もなく地球は氷の惑星、『全球凍結』(スノーボールアース)が起こります!
それは、今、この世界中で起きていることで、この気候変動は、その影響下なんです!!
あたし達はアンドロメダ王女様達と取り次ぎ、こうして皆さんを救う手立てを模索していました!!』
『皆さん、どうかあたし達を信じて、この宇宙船にどうか乗船してください!!』
『宇宙船の中も中々悪くないわよ! むしろ初体験かも……! さあみんな、勇気をもってこの宇宙船に乗ってきて、カモ~~ン!』
アユミ、クコン、クリスティさんの順に述べた。
なんかクリスティさんなんかは、ふざけていたが……本人には悪気がないので、悪しからず。
とそのクリスティの演説を聞いていたヒースさんは。
「人選誤ったかも……」
「これなら私がやった方がまだ良かったような……」
「「ハァ……」」
ヒースとシャルロットの両名は後悔し、嘆息す。


――恵起ホテル前にて。
停泊している宇宙船の中に、続々と民間人たちが乗り込んでいく。
それを促しているのが、愛娘を失ったご両親とその従業員さん達であった。
その宇宙船内のある区画では、子供たちがそのモニター画面を注視していた。
「あの2人、やっぱりあたし達と同じ修学旅行生だよ!」
「ああ、間違いない! だってあれクコンちゃんだし!」
「おい、恵さんのご両親にこの事を伝えてこい!」
「ブ・ラジャー!」


――クリスティさんの生家にて。
それは人伝によって伝えられたものだった。
「って、あの人でなしのお姉ちゃんがッ!?」
「何であんなところにいるのよッ!?」
「家の恥だわッ!!」
「あのろくでなしの家出娘め!!! 何だってそんな所にいるんだ!!?」
美人三姉妹とその父親が、驚きの反応を示すのだった。


――と現場の長崎学院に戻り。
「ほら、あの子だよ!」
「ほ、ホントだ。あの時あった子だわ……!」
それはクコンが修学旅行を経て、ここであったおじ様とおば様方であった。
「………………」
これには何人かの人達が武器を捨てて、戦意を失っていく……。
カラン、カラランと木製の釘バット等が転がっていく。
包丁、果物ナイフ、金属バット、テニスのラケット、ゴルフのアイアン、鉄のフライパン、畑のクワなど幅広い。
「みんなーっ! 聞いてくれ――ッ! あの3人のうち1人は、この長崎学院の関係者の生徒さんなんだ――ッ!!!」
「!」
これには一同、その声に耳を傾ける。
「前にみんなに話しただろ!? あの修学旅行生の生き残りの子なんだ!! 名前は確か……そう、クコンちゃんだった!!」
「ああ、そう言えば、体育館前で謎の惨殺事件のあった……!!」
「あの焼死体事件か!!」
「っておいッ!! 俺達は、少なからず生きているぞ!!!」
「勝手に殺すなッ!!!」
等々声が上がる。
そこで、アユミちゃんがクコンちゃんに声を投げかける。
『どうやらレグルス(あいつ)も、殺す気はなかったみたいね』
『うっうん……!』
だが、実際にやられた人達の中には。
「クソッ!! あの宇宙人のせいで、火傷の傷を負って膿を持ってしまうし、一生、このズキズキは残るぜ!!」
「あたしなんて、髪の毛がジュルって燃えて、頭皮に火傷を負ったのよ!! もうどうしてくれんのよ!! 髪の毛生えるの!? ねえっ!?」
「この火傷の傷、一生残るだろうなぁ……」
と男性と女性、そして子供たちにも取り返しのつかない火傷の傷が、残るのだった……。
これには2人とも。
『……』
『……』
何とも言えない顔に……ッ。
『あいつ……』
『ちょっと、ねぇ……』
『うん……』
これには対応に苦慮しちゃう
あいつはいろいろとやらかしちゃってる。
どうすればいいのこれ。ねえっ。
う~ん……。
とここで、別の人の声が上がる。
それは気づけなかった人がいて、気づいた人が教えてあげていた場面だった。
「そうそう、行方不明にあった子だ! 無事だったのか……!」
『く、クコンちゃんこれって!』
『う、うん! あたしの事覚えてくれててたんだ!』
涙が脆くなってくるクコンちゃん。
目尻から出た涙の雫を、指で拭い去る。
それは印象深かったから、皆さん覚えていてくれてたんだった。
『さあ、皆さん! この船に乗ってください!』
『あたし達は皆さんを歓迎します!』
『今乗らないと後悔するかもよ! チュッ」
と投げキッスするクリスティさん。それは腰を捻らせてからの乙女の投げキッスだった。
「おおおっ、スゲ――ッデケェ!!」
「ちょっとあんた達!! バカじゃないの!!」
「これだから男はすぐ、コロッと騙されるのよ!!」
「いいっ!? あんた達子供は、こんな大人になっちゃダメだからね!!」
「うっうん……」
「はっはい……」


――その映像を認めたクリスティさんの生家の人達は。
「あの恥知らず!!!」
「やっぱりあのおっぱいだわッッ!!!」
「あんなに見られて、あたし恥ずかしい……」
「大衆の笑いものだわ……」
等々の反応が見られたのだった。
憤り、怒り、恥ずかしさ、恥辱……と様々だ。


「デネボラよ。あのバカをつまみ出せ……力づくでな」
「了解!」
「手術は凄かったのに……」
「バカとハサミは使いようってことね」
アンドロメダ王女、デネボラ、ヒース、シャルロットさんと述べて。
『あっ! ちょっと何するのよ!?』
『『………………』』
ズルズルと目に見えない力に引っ張られて、その場から、クリスティさんを退けるのだった……。
その様子を、一番近くで伺っていたアユミちゃんとクコンちゃんは、苦笑いを浮かべて、ただただ見送っていた。


――そして現場では。
「あたし達、助かるの……?」
「……みたいだね……」
その少女の心配事に、
同じ年頃の少年が不安そうに作り笑みを浮かべて、答えてあげた事で。
「……」
その少女の顔は、パァと明るくなった。
暴徒と化した集団の中で、ガッツポーズの(女性のものの思われる)拳が天を突き出した事で、続々と武装解除の動きが見られていく。
隣り合うおっさん達が頷き合い。
まだ、その手に持っていた武器という武器を、捨てていく。
これには宇宙人たちも、戦闘継続の構えを解き、楽な姿勢を取って、戦闘態勢をやめるのだった。
これにて、暴徒化は終わりを迎え。
難民達を次々と拾っていく動きに変化(シフト)に移行するのだった――



☆彡
「――武器と荷物は置いていけ!! 人命を優先して乗るんだ!!」
注意を促す宇宙人さんたち。
「荷物を持った人は乗せられない!!」
「な、なぜ!? これは宇宙船だろ!?」
「どんな乗り物でも、それはスペース取りを、重量オーバーになるからだ!!」
おっさんの問いかけに、正論で返す宇宙人。
「おい、待てっ!! その荷物は置いていけ!!」
「ええっ!? なんでよーっ!?」
「中には何が入っているんだ!?」
「それはもちろんお化粧でしょ香水でしょファンデーションでしょ!! ネックレスでしょ!! アクセサリーや指輪よ!! 女には必要な身嗜みだからよ!!」
「グッ……! そんなものはいらん!! 置いていけ――ッ!!!」
「「「「「えええええ」」」」」
「疲れるぞ……こいつ等ホント……」
「あぁ……だな……」
「「ハァ……」」
呟きを落とす宇宙人さんたちは、この地球人たちの対応の悪さに嘆息するのだった――ハァ……。
と。
ポイッ、ポイッ、ポイッと階段の上から、続々と、宇宙船の周りに家財道具やらが投げ捨てられていく様は見ていて、なんだか同じ地球人類としてもどかしくも恥ずかしい……ッ。
その中には、バック、リュック、カバンなど様々だ。
その棄てられたリュックの中から顔を覗かせていたのは、玩具、お菓子、飲み物、漫画本など様々だ。
お化粧等も落ちていた。


☆彡
「――よしっ! 50人乗ったな! 次の宇宙船を回せ! 可能な限りここで難民たちを拾っていくぞ!」
「「「はいっ!」」」
それは手慣れた手際だった。
時間はもう限らてる。
外は大荒れ。
上空の雲は黒雲で時折、迅雷がゴロゴロと駆け巡り、猛吹雪がビュオオオオオと音を立てて吹き荒ぶ。
と天から稲光が落ち、
雷光が走り抜けた後――ピカッ、と一瞬、目の前が真っ白になり、
すぐ近くで、特大級の落雷の轟音が爆ぜる――ズッギャアアアアアン。
「キャッ!!」
「落ちたぞ――ッ!!」
民衆たちから悲鳴が上がる。
落ちた先に向こうの方にあるのは、それは、今自分達が乗り込もうとしていた宇宙船で、青白い火花が、目の前に降ってきた。
どよめきが起こる。
恐怖にかられた民衆たちが騒ぎ出す。
「ま、マズいぞ」
「クッ……」
苦虫を嚙み潰したような面持ちをする宇宙人たち。
そこへ。
「繋げて!」
「はっはい!」
駆けるはシャルロットさん。
機械操作を行うは兵士さん。
そこへ、急遽、ホログラム映像の中にシャルロットさんが入り、演説を行う。
『皆さんご安心ください!! 宇宙船は宇宙一安全な乗り物です!! 落雷なんて気にしません!! ほら、皆さんにも感電の現象が見られないでしょう!?」
「!?」
「そ、そう言えば……」
「……」
頷き合う民間人たち。
『さあ、難民大移動を続けてください!!』
「あ、あの人は……!?」
それはどこかで見たことがある顔つきだった。
それは忘れもしない、女医が少年を手術した後の話。
宇宙船から降り立った宇宙人の中にいた、あの女の人にそっくりだった。
『あたしは宇宙人! シャルロット!』
笑顔の花を咲かせる。
『アクアリウス星から皆さんを助けに来た、宇宙人のシャルロットといいます!』
「あ、アクアリウス……星人……?!」
そんな名前の宇宙人は知らないと、みんなが驚く。
驚きが周りに伝播していく、ザワザワと。
『今、地球人の皆さんを拾っているのは、あたしと同じアクアリウスファミリア!
そして、アンドロメダファミリアとソーテリア星!
加えて、プレアデスファミリアのご協力があってこそなのです!』
「……」
「……」
「……」
『いきなり、ファミリアと聞いても皆さんの戸惑いは、当たり前です! 相互理解が追いつかないのもわかります!
だから、これだけは覚えてください!」
「……」
『4つの星が協力して宇宙船を派遣し、地球人の皆様方の地球人類難民大移動を後押ししていると……!
そのチャンスを作ってくれたのは他でもありません……!
……昨日、炎の宇宙人と熾烈な争いを演じた、地球人のとある少年の功績があってこそなのです!』
「……」
その少年には見覚えがある。
それはあの日、レグルス隊長が用意した無人航空機『メイビーコロ』を通して見た映像だった。
『もう今日の正午には、氷点下6度を下回り、氷点下10度までに達します!!
そして明日には、氷点下20度を下回り……。
……ッ。
それは地球全土を氷河で覆いつくし、とても人が暮らせるような環境下ではありません……!
地上から、熱が逃げていくのです!!!』
「氷点下6度!?」
「氷点下10度!?」
「うええっ明日には-20度!? それはあんた死ぬわ!!!」
『チャンスは今、この瞬間! この時だけです!! さあ、皆さん、落ち着いて行動してください!!!』
ザワザワと騒いでいた民衆たちは、その話が真実に値するものだと信じ込み、ザワめきを無くしていくのだった……。
一様にコクリと頷き得る。
この様子を伺っていたシャルロットさんは、にこっ、と笑みを浮かべて、
難民の大移動を見守る立場に回る。
(これでもう、安心ね……)
あたしシャルロットは、モニター画面に映る地球人たちの難民大移動の様子を注意深く観察するのだった。
「………………」
これにはあたしも、気づかれないように、よしっと拳を握りガッツポーズを取った。
続々と地球人の難民達が、宇宙船の中に乗り込んでいく様は、まさしく初めて見るもので、地球の人類史に刻まられる光景だった――


☆彡
――そしていよいよ、終盤に差し掛かった時、それが起こるべくして起った。
人々がワラワラと密集してきたのだった。
これにはあたし達も驚いた。
「ちょぉ待てっ!! 何だってこんなに人が集まってくるのー!?」
それはクコンちゃんの悲鳴だった。
「当たり前じゃ! 地球人にとって生きるか死ぬかの瀬戸際じゃ!! いよいよ出てくるぞ……自分だけ助かればいいという輩がなッ!!」
「……ッ」
クコン、アンドロメダ王女、クコンと述べあい。
その王女様の横で、デネボラさんが、ヒースさんが頷き得る。
クコン(あたし)には、王女様の声なんて聞こえない。
けど、これだけはわかる。これから訪れる光景を見ることに。
それは人の本能だった。
いつでもどこでも、いつの世でも悪い人はいるのだから。
それは実感に近かった。
『……これが人間なのね……』
『……』
クコンちゃんの発言に、
あたしアユミちゃんも頷き得る。

【これをもしも、日本の首都東京やアメリカの首都ワシントンD.C.でした場合、現場はもっと混沌したことだろう】
【現場はもっと阿鼻叫喚の嵐、血で血を洗う現場、殴る蹴る、罵倒する、人の醜い本省があらわになる】
【それは限られたチケット席の奪い合いに他ならないのだから――】

『……』
シャルロットさんもこの光景を見送る。
「……」
ヒースさんも。

【だからあの時、あの場面で、日本やアメリカなどの首都を誰も言わなかったのだ】
【最悪を見越して――】

2人は、こんな展開も読んでいたのか、冷たい目で見送っていた。
それはわかっていたからだ。
宇宙船の階段を上がっていく民間人の人達がいた。
だが、そこへ横入りしてくるのは、不良集団の若者達。俗に言うガラの悪い暴走族である。
暴走族は我が物顔で進んでいく。
怯える民間人の人達。
その道を開けていく、開けていく。
――とそこへ、屈強なアンドロメダ星人の開拓者さん達が立ちはだかる。
「――あなた方を乗せる船はない!! 降りてもらおうか!!」
「あ~ん!? お前達は俺達みーんなの味方なんだろうが!? アッ!? それとも何か、俺達全員にこのまま凍え死ねっていいたいのかよあんたはよ!! ア~ン!?」
「……」
その宇宙人は、そのガラの悪いヤンキを睨みつけ、強い思念を送りつける。
それは、テレパシー(チレパーティア)を強めたものだッ。
「痛てっ!! 何だこれ!? 頭が割れるように痛て――っ!?」
キィ――ン
「あああああっ!!!」
「頭が割れる――ッ!!」
「この野郎!! ヤメロ!!」
「いや・やめて――ッ!!」
「割れるてばッ!!」
ガラの悪いヤンキ共は頭を抱え、苦しみ出した。
そしてそのまま、宇宙船の階段から勝手に転げ落ちていくのだった。
1人、2人、3人、4人、5人、おまけに6人と……。
これには階段を上がっていた人々は、我が目を疑っていた。
「……」
「……」
怯える地球人たちと。
冷たい目で見送る宇宙人。
「……」
「……」
その様子がしばらく続き。

――その光景を、モニター画面越しにアンドロメダ王女たちが見送っていた。

とここで、テレパシー(チレパーティア)の使い手の宇宙人が一言漏らす。
ボソッと呟く。
「報告にあったアローペクス達の歴史の事もあるからな……! 意に沿わない輩はここで排除させてもらう」
フンッと鼻を鳴らすアンドロメダ星人の開拓者。
それは未然に防ぐうえで必要な事であり、意に沿わない輩が出てきても、牽制しうる意味でもあった。
人殺しの汚名も被るのも、遠からず、できている。
とこの様子を伺っていたアンドロメダ王女様が一言。
「デネボラよ。これからは女子供を優先するよう伝えよ!」
「ハッ!」
「「……」」
とその様子をヒースさんとシャルロットさんが流し目で見送っていた。


☆彡
――そして、また問題が起こる。
「定員は一船につき50人が限界だ!! 女子供を優先しろ!!」
そう、アンドロメダ星人の開拓者が告げる。
それは、アンドロメダ王女様の希望通りに、人選をふるいにかけた時だった。
当然、それは起こるべくして起きた。
「おいっおじさん!! お前は女子供じゃねーだろ!! 諦めろ!!」
「うるせえーッ!!! 乗せろーッ!!! 俺は会社の重役取締役だぞ!!!」
「!?」
「バカかお前は!! そんなの知るかッ!!」
これにはアンドロメダ星人の開拓者が怒った。
その重役取締役を掴みかかる。
「!?」
「いいかよく聞けよ!! 俺達はここで打ち切る事だってできるんだぞッ!!
お前達全員を乗せずに、ここで帰る事だってできるんだ!! そうしないのはひとえにアンドロメダ王女様のお顔を立ててるからに他ならない!!
会社の重役取締役だ――ァ!? そんなもんこんな時に何の役に立つ!?
屁の役にも立たねえ!!
現実を弁えろよおっさん!!」
と宇宙人は、そのおっさんをドンッと突き飛ばした。
突き飛ばされたおっさんは後ろ手によろめきながら、倒れかかるのを、なんとか踏み止まり。
周りの人達が冷ややかな目線を殺到する。
「!」
そのおっさんは内心悔しがり。
「クソ――ッ!!」
とその場で地団太を踏みつける――ダンッダンッダンッ
「フンッ!!」
と鼻を鳴らす宇宙人の兵士。
それを見送るように、おっさんがズカズカと歩み去っていく。それはひとよがりな泣きっ面の弁だった。
「逆切れかよ!! 付き合っておれんわ!! フンッ、こちらから願い下げだッ!!」
と上がっていく人の肩を掴んで。
「おいッ!! お前達も乗んじゃねえよ!!」
「……」
それは迷惑行為だった。
だがら、仕置きが必要だった。
光線銃を構え、引き金を引き、光線の弾丸が走り――ドンッと小爆発し、そのおっさんを軽々吹っ飛ばしていった。
「! アアアアアッ!?」
背後から強襲劇を受けたおっさんは、前のめりに倒れかかり、目の前に迫るのは凶器と化した下り階段だった。
当然、鈍い音を立てながら、転がり落ちていった。
――アアアアアッ
そして、ドシャ……と惨めに冷たい大地の上に転がり落ちて。
「ウウッ……」
と呻き声を上げる。
それを撃ったのは、アンドロメダ星人の開拓者だった。その光線銃を上げて、周りに注意を促す。
「さあ、生きたい奴は乗船を続けろ!!」
「……ッ」
ここが生死を分ける分岐点だ。
私達開拓者一同は、それを預かっていることを心得ている。
その宇宙船の階段下では――


「――ワシたちは老い先短い、なぁ婆さんや」
「ええ、爺さん」
ジイジ、バアバの目線の下には子供達が残した、可愛らしい姉と弟の姿があった。
しゃがみ込み、ジイジは弟の肩に手を、バアバは姉の頭に手を乗せて、語りかける。
「お前達はワシ等の子供達が残した宝だ」
「ええ、ワシ等は地球に残ります」
それは笑顔の別れだった。
「さあ……お行きなさい」
「パパママ、ワシ等の分まで生きるんじゃぞ」
「クッ……」
「ううっ……」
そして孫たちは、老人たちに別れの手を振って、宇宙船の階段を駆け上がっていくのだった。
「……」
「……」
姉は弟の手を掴んでいた。
この手は決して離さないように。
地上の大地から手を振るお婆さん、笑顔のお爺さん。
その顔は作り笑いだった。
「クッ」「うっ」と他所を向き、今まで溜め込んでいた涙を流す。
「うっ……うっ……達者でな……ァ」
「最後まで、お供します、爺さん」
「ああ、よろしく頼む」
「ええ、ええ……」
爺さんと婆さんは、その合いの手を掴み取るのだった。
――ビュオオオオオ
と猛吹雪が吹き荒ぶ。
その時、地震が起こる、いやそれは大地震だった。
――ゴゴゴゴゴ
――ドドドドドドドドドドッ
その地震の余波で、宇宙船の足に傾きが起るが――自動で宇宙船の足が伸縮し、機内に影響を伝えないようにする。
だが、他所では、高層ビル群の一部が倒壊するほどの大崩落を起こし、その衝撃の凄さを物語るように、こちら側に報せる。
砂煙が舞い上がり、大きな粉塵となって立ち昇らせる。
――ゴゴゴゴゴ
と爆風が吹きつける。
「うわっ!」
「きゃあ!」
「つ、ついにこの日がきたのか……!! 地球最後の日が……?!」
粉塵が舞い上がり、煙が天を覆い隠すほどだった。
その時、一条の落雷が宇宙船の上に、
――ドォオオオオオン
と轟音を響かせて落ちたが。
機内は無事そのもので。
その外では、青い火花が舞い上がっていた。
これを見た私達は、俺達は、僕達は、あたし達は、うち等は。
「オオオオオッ!!!?」
と地球と共にする人たちは、感嘆の声を上げた。
「こっこれなら……!!」
それは希望と夢を乗せた宇宙船だ。
地球の子種たちを乗せた。
そこに最後に乗船していくのは――
「――おい、そろそろ50人だ! 俺達も乗らないとヤバいぞ!!」
「そうだな急ごう!!」
「ああ!」
「わかってる!」
宇宙人の兵士たちの代表を務める隊長格は、光線銃を高々と上げて、発砲した。
「――!?」
「定員4500人越えを乗せた! これにて任務終了! 帰還する!」
「「「「「ハッ!」」」」」
続々と宇宙人の兵士たちが宇宙船に乗り込んでいき、
宇宙船へと上がる階段が、ウィ――ンと音を立てて閉まっていく。
その際、捨て台詞を吐く。
「君達全員の健闘を祈る!! ………………」
ビシッとその開拓者は敬礼し、最後の別れを告げる。
それを黙って見送る一同、それはまるで騙されたように、戦慄し、固まっていた。
それはある種の期待だったのかもしれない。
もしかしたら、と。
そうして、ウィ――ンと上がり階段が納まっていき、
ハッチが、ガシャン、ガシャン、ガシャンと目に見えないところでロック機構が働き、気密性を高め、完全に閉じられたのだった。
その後は当然の如く――
「――発進!!」
機械操作を行う兵士さんが、スロットルレバーを上げる。
宇宙船の下部から反重力システムが働き、宇宙船が浮上していく。
その高度がドンドンと上がっていき。
宇宙船全体にエネルギー場が生じる――ヴヴン、と。
そのまま宇宙船は、ビュ――ンと空高く昇っていくのだった――……
キラーン☆
取り残された人達は、それを見て。
「俺達を見捨てるか!! このっ人殺しめ――ッ!!!」
「薄情者――ッ!!!」
「街を、文明をこんなにしやがって――ッ!!!」
「責任を取って謝罪しろォオオオオオ!!!」
「クソクソクソ、クソ――ッ!!!」
「お願い、我が子だけでも!! あああああ」
「パパとママの分まで生きるんだぞ――っ!!」
「うっ……ううっ……」
「ダメだ、待って……、行かないでくれぇえええええ!!!」
そうして宇宙船は、キラ――ン☆と小さなお星さまになっていき、さらにドンドンと遠ざかっていき、もう何も見えなくなる……――


――それは世界各地で、同様に宇宙船が地上から飛び立ち、いくつもの小さな星となって遠ざかっていくのだった。
残された人々は、その手を伸ばし、嗚咽を漏らす。
罵る人、憤る人、嘆き悲しむ人、希望を打ち砕かれた人、涙ぐむ人。夢を希望を託した人など、様々なドラマがあった。


――その様子を見守るのはあたし達。
それはモニター画面を通して見ていて、あまりの現実と理想との差異(ギャップ)に愕然としていた。
「――ちょっと待ってよ、みんな……まだあんなに人が大勢残って………………。こんな……こんな事って……うっううっ!!」
頭を抱きかかえるアユミちゃん。
こんなの耐えられない。良心が呵責されちゃう。
「何でよ……もう……ッ」
クコン(あたし)も涙ぐむ。
嗚咽を漏らさないと、顔を覆う。
あたしがモニター画面を見ていなくても、時間は無情に流れ、進み続ける。
時間は進むだけ。
宇宙線は1つ2つ3つと高度を上げながら離れていき――そこから見下ろせるのは、白くなっていく青い星だったもの、地球だ……。
「『全球凍結』(スノーボール・アース(クライオジェニアン)前の地球って……、こんなに白いのね………………」
「ああ………………」
(これが……『氷結への脈動』トゥフリーズ・ポーセィション(ナ・パゴシィ・パイモース)……なんだな………………ッッ)
「………………ッ」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」
「ごめん……みんな……ッ!」
シャルロットさん、ヒースさん、クリスティさん、アユミちゃん、クコンちゃんと言の葉を残す。
それはどうにもならない現実に打ちひしがれた様だ。
「……」
誰かが握り拳を握る。
あたしにもっと、力があれば……ッ。
【――一同は、頭を下げ、胸に手を当てて、静かに、黙とうを捧げる者もいた】
【それは、取り残された人達に対する……】
【せめてもの謝罪であり、もうどうする事もできない現実を思い知らされる】
「「……」」
「「……」」
【まだ幼い少女たちの双肩。その重責は思いのほか苦しかった……】
【打ち震える、その小さな肩が……】
「……」
「……」
クリスティさん、シャルロットさんは、その子達に近づき、その胸元に抱きしめる。
「!」
「!」
【見ていられなかった……】
【まだ、まだ、まだこの子供達には早過ぎた……】
「うっ」
「ううっ」
【だから、投げかける言葉なんて見つからない……】
【見つけられるわけがない……ッ】
「「うわぁあああああ!!!」
嘆き悲しむ少女達。
「「……」」
抱きしめる女性達。
【それが人の心情であり、心の迷いに葛藤があったのだから……ッ】
「……」
「「「………………」」」
ホロリとするデネボラさん。
顔を上げて、モニター画面を見据えるアンドロメダ王女、ヒースさん、そしてL。
【モニター画面に映るのは、派遣されていた宇宙船が、次々と地球から飛び出していき、離れていく姿だった……】
【さっきより今が、より一層、青かった地球が白く見える――】
「アンドロメダ王女、あのファミリアは……!?」
「わらわの星の者じゃ……やはり、宇宙探査機事件が尾を引いておったか……」
「ですが、あれくらいで済んでよかったです……ッ」
顔を下げて、打ち震えるヒースさん。
「もしも、仮にあの場で、殺傷事件でも起こしていたらと思うと……!!」
「………………」
何も言わずに、顔を上げるわらわ。
「「………………」」
その横でデネボラとLが見送り。
「……」
「……」
2人の痛い視線が、わらわの背中から画面に映る。
【Lが、その小さな手を伸ばし、誓いを立てる】
「きっと、復興させるから、スバルと……一緒に……」
【そうして、すべての宇宙船が地球から飛び立っていった】
【地球人類4500人越えの難民たちを乗せて……――】


TO BE CONTIUND……


しおり