157章 セクハラ?
店をオープンすると、すぐに満席になった。
ミサキは20歳くらいの女性から、サイン色紙を渡される。
「ミサキさん、サインをください」
ミサキは愛情をこめて、サイン色紙にサインをする。
「ミサキさん、ありがとうございます」
サインをしたあとに、女性と握手する。ホノカを感じさせる、柔らかさを伴っていた。
「ミサキさん、写真集はとってもきれいでした。私もあんなふうになりたいです」
写真集は男性ではなく、女性の支持を受けている。大食いでアイドルをするのは、たくさんの女性のあこがれになっているようだ。
「ミサキさん、写真集にサインできますか?」
「それは無理です。サイン色紙にしてください」
仕事の依頼先から、写真集にサインをしないようにいわれている。それゆえ、写真集にサインをすることはできない。
18歳くらいの女性から、サイン色紙を受け取った。
「サイン色紙に、サインをお願いします」
「わかりました。サインさせていただきます」
サインを書いていると、一時的に握力を失った。そのこともあって、普段とは異なるサインとなった。
「失敗してしまったので、新しいサインをしましょうか?」
女性は首を横に振った。
「失敗したサインは、プレミアになります。私にとっては、こちらのほうが貴重です」
女性はとっても嬉しそうに、失敗サインを受け取る。笑顔を見ていると、こちらも幸せを感じた。
「ミサキちゃん、焼きそばを7人前」
「ミサキちゃん、塩焼きそばを4人前」
「ミサキちゃん、焼きそば5人前」
「ミサキちゃん、塩焼きそばを5つ」
「ミサキちゃん、ジュースを5つ」
「ミサキちゃん、焼きそば7人前」
「ミサキちゃん、ジュース6つ」
ミサキはメモを取ると、シノブに渡した。
「シノブちゃん、お願いします」
「わかった。これから作るね」
作り立てを食べてもらうために、作り置きはしていない。焼きそばを食べるためには、かなりの時間を待つことになる。
ミサキは20歳くらいの女性から、声をかけられた。
「ミサキさんは本当にすごいですね、私はアイドルをやっていたけど、写真集を販売してもらえませんでした」
「そんなにすごいことですか?」
「個人の写真集を販売できるのは、10万人に1人くらいです。多くのアイドルは表舞台に立てないまま、自動引退していきます」
表舞台に立つ権利は、ごくごく一部のアイドルだけに許されている。長所のない人間については、日の目を見ることなく消えていく。
「現役アイドルだったら、大きなショックを受けたでしょう。アイドル活動をしていない女性を起用されるのは、お前はいらないといわれているも同然です」
アイドルのプライドよりも、写真集の売り上げを優先する。アイドル業界で生き残るためには、一般社会以上に数字を求められる。
20くらいの女性は、ミサキのおなかに手を当てた。予期していないことだったので、体はひくっとなった。
「大食いといわれているのに、体の線はとっても細いですね。アイドルをやっていくにあたって、理想の体をしています」
ミサキが体を触られたのを察したのか、シノブはすぐにやってきた。
「従業員の体を触るのは禁止されています。ルールを守れないのであれば、入店禁止とさせていただきます」
20くらいの女性客は、すぐさま手を離した。
「ミサキさん、すみません。知らず知らずのうちに、おなかを触ってしまいました」
シノブは体を触った女性に、最終通達を行った。
「今後は同じことをしないでください。守れなかった場合については、すぐに退店していただきます」
「わかりました。今後はこのようなことはしません」
シノブは注意を終えると、厨房に戻っていく。