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175章 ミライの思い

 昼食をおえたあと、ミライの家に招待される。

「私の家にあがってください」

「お邪魔します」

 ミライの家の中は、現代風というよりは古風である。

「家の中にはガス、水道、電気、お風呂、トイレなどがついています」

 当たり前のことなのに、ワンランク上の生活をしているように感じられた。

「自分の家を持てたことに対して、大きな喜びを感じています」

 現代社会で自分の家を建てたときに、感動で胸が一杯だったのを思い出す。自分の家を持つというのは、一般庶民にとっての夢である。

 二人で話していると、扉をノックされる音がする。ミライは話を中断したのち、玄関に向かっ
ていった。

 ミライは来客に挨拶をする。

「こんにちは・・・・・・」

「ミライさん、絵の依頼をしたいです」

 ミライは深々と頭を下げる。

「ありがとうございます。どのような絵を描けばよろしいですか?」

「太陽をバックにしている、男の子を書いてほしいです。男の年齢は7歳くらいで、ボーイッシ
ュがいいです」

「ありがとうございます。納期はいつまでですか?」

「4日後となっています」

「ありがとうございます。絵を描かせていただきます」

 交渉がまとまったのか、ミライはこちらに戻ってきた。

「今日だけで、4枚目の依頼ですね」

「依頼数はそんなに多いの?」

 1日で4枚だとすると、30日で120枚になる。すべてを書くのは、かなりの重労働といえる。

「毎日が同じ枚数というわけではありません。1日で10枚の依頼が来るときもあれば、0枚が続く
こともあります。1カ月換算にすると、50枚前後くらいとなります」

 1カ月で50枚の絵を完成させるのは、かなりの重労働となる。腕が痛くなるのは、やむを得な
いことといえる。

「依頼数が多いので、納期を細かくメモをしています」

 納期を守るのは、非常に重要である。これを破ってしまうと、すべての信用を失うことにな
る。

「絵を描かなくてもいいの?」

「今日だけは、ゆっくりと過ごすつもりです」

 オフの日を作ることで、心身をリラックスさせる。仕事にとっては、非常に重要なことといえ
る。

「アカネさん、少しだけ甘えてもいいですか?」

「うん。いいよ」  

「少しだけでいいので、ハグをしてください」

 握手を求められたことはあったけど、ハグを求められたことはない。そのこともあって、心がどうようすることとなった。

「ミライさん・・・・・・」

「アカネさんの体温を感じたいです」

 アカネは少しだけ考えたのち、

「わかった・・・・・・」

 と返事をする。ミライは了承を取り付けると、身体を寄せてきた。直後にほのかな甘み、柔らかい温かさを感じることとなった。

「ありがとうございます。こうしてもらえるだけで、心の苦しみを解放することができるでしょう」

 大金を得るようになっても、火傷をしていたときの傷は消えない。一度味わった苦しみは、永久的に残り続ける。

 ミライは身体を離すと、

「街からいなくならないでください」

 といった。短い言葉なのに、深い重みを感じることとなった。

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