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「そうだな、外の空気を吸うには丁度いい機会だ。喜んで従いますよ、主君様」

 ケイバーはクロビスの片方の手をとると、手の甲にキスをして、下僕としての忠誠心を示した。そんな彼を見下しながら言い放った。

「フン、下僕のクズが……!」

 彼は3人の方に目を向けるとそこで指示を出した。そして、呆然と佇むチェスターの方を見た。

「お前にはもう用はない。自分の持ち場に戻ってもいいぞ?」

 クロビスがそう話すとチェスターは直ぐに返事をして一礼した。

「はっ、はい……!」

 彼は返事を返すと、部屋から出ようと気持ちだけが先走った。するとクロビスが話を続けた。

「……それとだ。オーチスと囚人に関しての脱獄の証言をよく言った。おかげでこのとおり問題解決だ。証言を裏づける証拠もみつかり、お前にとって一安心と言った所か?」

「えっ……?」

「そうでなきゃ今頃、オーチスの代わりにお前の首が飛んでいたところだ」

 クロビスはチェスターの目の前に立ってそのことを話すと、彼の顔は急に青ざめたのだった。

「自分の上司と言え、さぞかし心苦しいだろ。だが、お前の目撃証言がなかったらコイツの悪巧みも暴けずに今頃囚人はどこか遠くへ逃げていたところだ。しかし、お前の証言のおかげで、逃げた囚人の行き先がようやくわかった。自ら証言に名乗り出てくれて感謝するぞ?」

 クロビスの意外な言葉に彼はそこで驚きを隠せなかった。そして、他の3人も少し驚いた表情をしたのだった。チェスターはオーチスの方に目を向けるとすぐに目を反らしてドアの方へと歩いて行った。そして、ドアノブに手をかけると一言挨拶をした。

「では、俺はこれで失礼します……!」

 そう言って挨拶をし終えると、チェスターは足早に部屋から出て行った。彼が部屋から出て行くと、ケイバーは不意にクロビスに尋ねた。

「あいつを帰らせていいのかよ? あいつだってジジイが囚人と脱獄の話を聞いて知ってても、今まで黙ってたんだぜ。どうせだったらジジイと纏めてあいつも……」

ケイバーがそう話すとクロビスは一言黙れと命令した。

「まあ、大目にみてやろうではないか。あいつの目撃証言がなかったら今頃は、逃げた囚人の行方は解らずじまいだったからな――」

 彼はそう話ながらも瞳の奥に狂気を忍ばせた。そして、強かな表情でクスッと笑った。

「それにだ……新人のあいつに洗礼を受けさせるにはいい機会だ。ここが何処かを改めて解らせてやるさ、それこそ奴が恐怖にひれ伏すほどのな……!」

 クロビスはそう言って話すと、ふと怪しさを秘めた冷酷な微笑みを静かに浮かべたのだった。

「お前達2人は今からダモクレスの岬の捜索にあたれ! 脱走した囚人をみつけたら直に捕まえて牢屋の中に放りこんどけ! もし囚人が抵抗した場合はその場で殺しても構わん、このグラス・ガヴナンからは絶対に逃がすな!」

 クロビスがそう命令すると2人は黙って頷いた。

「ジャントゥーユ。お前は竜騎兵の兵舎に行って、あいつらに出動命令を伝えに行ってこい!」

 彼が命令するとジャントゥーユは素直に頷いて見せた。

 そして、足早にドアの方へと向かった。ケイバーは不意にクロビスに尋ねた。

「おい、そこのジジイはどうするんだ。なんなら俺が今すぐにこいつを始末してやるよ?」

 彼はそう話すと、右手にナイフを翳してチラつかせたのだった。

「俺達を散々コケにしてくれたんだ。だからこいつに落とし前をつけさせてもらおうぜ?」

「……いや、むしろ個人的にこいつをぶっ殺したいくらいだ!」

 ケイバーは殺気立ちながらそう話したのだった。

「なにもこいつを殺りたいのはお前だけじゃねー。俺もさっきから斧でこいつを殺りたくて、ウズウズしてるんだよ?」

 ケイバーがそこで殺気立つと、そこにいたギュータスも同じ事を彼に話した。そんな2人にクロビスは呆れた表情で早く行けと命令した。

「フン、貴様らが手を下さなくてもこいつは私が始末してやるさ。それにさっきとても良いことを思いついたんだ。こいつの贖罪には相応しいフィナーレをな……」

 クロビスは2人の前でそう話すと、怪しさを秘めながらクスッと笑った。

「さあ、無駄口が済んだら早く捜索に行け!」

 クロビスの命令に従うと、大人しく外の捜索にあたることにした。2人は出口に向かう際に、オーチスに一言告げた。

「じゃあな、オーチス。お前の最後を見届けねーのは名残惜しいけど、あの世で元気にしろよ!」

 ギュータスはそう言うと可笑しそうに笑った。

「あばよジジイ! てめえの内臓えぐり出してナイフで切刻んでやろうと思ったけどよ、主君様の命令に従うのが俺のポリシーだからここは大人しく引き下がってやるぜ。お前はクロビスに八つ裂きにされてろ!」

 ケイバーは嫌味な口調でそう話すとそこで薄笑いを浮かべた。そして、後ろ向きで手を振ると足早に部屋を出て行った。3人が部屋から出て行くとクロビスとオーチスの2人だけになった。

 シンと静まりかえる部屋が辺りに異様な雰囲気を漂わせた。暖炉の傍では焚き火が燃える音がした。クロビスはオーチスの背後に黙って立つと、一言も喋らずに黙り込んだままだった。その背後からの重圧感は彼の心拍数を高めさせた。椅子の上に拘束された彼は身動きもとれずに、逃げ出すことも出来なかった。恐怖と震えと緊張感が彼の中に一遍に押し寄せた。

 そして、研ぎ澄まされた空気が部屋の中を一気にはりつめた。口元が僅かに震えると、カチカチと震えた音をたてた。彼は緊張感から額から冷や汗が滲み出た。オーチスは自分の身にふりかかる恐怖に支配されると悲鳴をあげて叫びそうになった。その恐怖は確実に彼を死へと貶めるものだった。ただならぬ重圧感に全身の震えと緊張感がピークに達した時、彼の背後からクロビスが話し始めた。

「貴様が何を企んでいるか知らんが、囚人を逃がして満足か? 囚人を逃がしたのはお前なりの情けか? それとも同情か? 私の顔に泥を塗るような事をしてさぞかし愉快で堪らないだろ。私があいつにどんなとばっちりをくらうか、貴様にはわからぬまい……!」

 クロビスは背後からそう話すと怒りの表情を見せた。

「ましてや囚人を逃がしてなおも、自分ではないとよくも平気で嘘をついたな。貴様のその悪知恵には見上げたものだ。最後まで嘘がバレないとでもおもったのか? それともお前なりの何か自信がでもあったのか? この際、正直に言ってみろ…――!」

 そう言って冷たい口調で話すと、クロビスは背後から威圧したのだった。

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