第1章の1話 スバルとアユミ
【――それから月日は流れ、現在――】
アンドロメダ銀河のソーテリアーから、天の川銀河の地球へと場面が移り。
【アース・ポート】
赤道上に作られた宇宙エレベーターへの入り口。
ここを渡る交通手段は車か船のどちらかであり。
主に湊湾(みなとわん)から長い桟橋が伸びているので、車での通行が行き交っている。
また、海上でもあるので、船での観光名所となっているのだ。
ただし、現在は、海水面の異常上昇に伴い、そのアース・ポートの大部分が、海に浸かっている状態なのだ。
これも環境温暖化の一因である。
その施設にいる美人乗務員が皆様を案内する。
「ようこそおいで下さいました。当宇宙エレベーターアースポートへようこそ!
これから皆様はおよそ一週間かけて、静止軌道ステーションに向かいます!
なお乗組員は30人までです!
では、さっそく向かいましょう!」
美人乗務員と一緒に皆様を連れて、エレベーターが昇っていく。
初めに見えるのはアースポートの外観。
次に大海原と本島とを結ぶ長い桟橋。
次にどこまでも広がる青空、やがては雲の中から抜け出して、雲海が広がる。
やがては宇宙となるのだ。
と、突然、体が浮き出した。
このエレベーターが向かう先は、静止軌道ステーションであった。
【静止軌道ステーション】
『ここは静止軌道ステーション。
地上のランドマークならぬスペースマーク。
当然ここで働く作業員たちは、当然、無重力化の中でも、作業がしやすくなっています』
そう、ただ宇宙空間の中でふよふよ浮いているのではなく。
平然と自分達の足で、工具を使って作業しているのだ。
『この静止軌道ステーションの中にある特定の区間が高速で回転し、まるで地上で作業しているかのような、疑似空間となっている箇所が随所にあります。これもまた必要な措置です。
私達人類は、無重力と重力を使いこなす、高度な知的生命体なのです』
とここで元気な男の子が乗務員さんに質問を投げかける。
「質問――乗務員さん! なんで無重力の中だけで、作業しないの?」
「いいところに気がつくおぼちゃまですね! それは肉体の衰えを防ぐための、必要な措置だと云われてます!」
次にお嬢ちゃんが乗務員さんに質問を投げかける。
「質問! 他に何かあるんですか!」
「運動機能の低下のほかに、風邪にかかりやすいなどの問題を解決するためだと云われてます!」
「という事は重力がある方がいいのか」
「はい、実際のところはその通りです! 一般的に地球人が暮らせるのは、1G~2Gまでがベストだと云われています。
地球人が住めるのは2Gまでだと云われていまして、3G以上でそこに暮らすことは困難だと云われてます!
なお、実験的に試みた人達がいるのですが……ほぼ常に頭痛と吐き気、立ち眩みに貧血、関節部の痛みを訴え、実験は終了したそうです。
……つまり! 10G以上で子供を授かるという事は、科学的に考え難いということですね!」
「「へ~」」
「そうなんだ」
坊ちゃんと嬢ちゃんが納得し、周りの人達も1つ賢くなったのだった。
【結婚式場 花嫁控室】
花嫁は、腕時計型携帯端末から映写されるホログラム映像の相手に何やら話しかけていた。
『――以上のように、問題はありません』
それはある会社の幹部役員であった。
笑みを浮かべ、ほくそ笑む花嫁。
「では予定通りに」
「……はい。畏まりました」
それだけを伝え、相手は回線を打ち切った。
「フフッ……まるで人生最高の瞬間! 挙式とプロジェクトの同時進行ができるなんて……! ホホッ」
花嫁は上機嫌に笑い。恍惚の笑みをしたためた。
【――それは成功すれば、人生最高の瞬間、極楽と言えるだろう! が失敗すれば、天国から地獄へ陥る……】
☆彡
【某宇宙基地】
ロケットは、発射台に添えられている姿勢だった。
そして、もう間もなくカウントダウンの時がきたる。
宇宙探査機を乗せたロケットのエンジン部から燃焼ガスがキュイ――ッと噴き出し、発射体制に入る。
『3』
『2』
『1』
ゴゴゴゴゴとジェットエンジンから点火の炎が噴き出す。
そして、ロケットは無事発射台から発射され、力強く、グングンと高度を上げながら大空へと吸い込まれていった。
その際、ロケットエンジンの光熱に当てられたせいか、白い雲が変化したのだ。
色鮮やかな色彩へと、赤、白、緑といったまるで吉兆雲、彩雲がこの日観測された。
それを見ていた多くの人達は、今日はいい事があるかも知れないと大いに喜んでいた。
☆彡
【某TVスタジオ】
TVを見ている人達、または腕時計型携帯端末から映写されるホログラム映像を見ていた人達は、大いに騒ぎ、今日この日のトップニュースとなった。
「飛び立ちましたね~~」
「ええ……人類と、」
『AI』
「「『夢と希望が詰まった、宇宙探査機が大空の舞台へ――』」」
TV画面に映る3名の姿。
左から順に男性、女性、アンドロイドがそう述べたのだった。
この時代、もう当たり前ではあるが、混血(ハーフ)のTVアナウンサーである。
アンドロイドもいるが、むしろ、ご愛嬌。
この3人でお送りします。
「今日午前11時丁度に、某宇宙基地から無事宇宙探査機を乗せたロケットが打ち上げられました! 打ち上げたのは『坂口宇宙開発研究センター』からです!」
「通称『サカケン』ですね!」
『今日のトップニュースですね。これは楽しみです!! 見てくださいよ、この雲! 彩雲ですよ! 色艶やかですねぇ~~」
「ホント! 赤、白、緑と美しいコントラスト! 自然の芸術じゃないですか!」
「綺麗……世の中にはこんなに綺麗な雲があるんですね。英語ではなんていうんですか? アンドロイドさん!
『はい、お答えします。cloud Irideltusennsu(クラウドイリデッセンス)……といいます。それにしても素晴らしい彩雲ですね! 今日この日は、歴史的瞬間になりますよ!』
「えぇホントに!」
男性、女性、アンドロイドという順に応え、最後に女性アナウンサーが話をしめた。
「――では引き続き、次のニュースです!」
『現場のクロコさん』
☆彡
【――戦争被害を被った、新旧西ノ島の現在(いま)】
『――はい。現場のクロコです』
人型アンドロイドなのに、なぜか、汚染から身を護るための防護服に身を包んでいた、その訳は。
『今、1年間に浴びてはいけない放射線量が観測されています』
人型アンドロイドが歩くたびに、ガラスの砂浜から音が奏でられる。
おおよそよほどの超高熱に晒されたのだろう。
「それにしても人類はなぜ、まだ生まれて間もないと言えるのかもしれない、この島を爆撃したんでしょうか!?」
『それはやはり敗戦国間近のささくれた人達がやらかした心情としか……形容できません。恐らく、一矢報いたかったのでしょう。
戦争の被害はここだけに留まりません! 世界各地で同様の戦争の爪跡を残し、現場保存されています』
「悲しい話ですよね……第二次世界大戦を体験した先達者達は、もう二度と戦争を繰り返してはならない……と、あれだけ真摯に向き合ってきたのに……なぜ……」
『……』
「……」
【この疑問にはアンドロイドも男性アナウンサーも答えられなかった。
いいや、番組中の話の流れで答えられず、黙秘したのだ。
全ての原因は、人の暴力性と富の奪い合いであった。この戦争は経済戦争であり、同時に他国から領土を奪い取る、資源の奪い合いでもあったのだ】
『――それでは次のニュースです! 暗いニュースから一転、明るいニュースをお送りしましょう! 現場のサチヨさん!』
☆彡
『――は~い☆現場のサチヨちゃまだよぉ!』
いけしゃあしゃあと、エアディスプレイのTVカメラマンにVサインをかます、明るくお茶目なアンドロイドの登場だ。
『今あたちは、『坂口宇宙開発研究センター』主催の結婚式場にいます!』
その時。
「新郎新婦、入場ーっ!!!」
拍手喝采の嵐が上がる。
招かれた両家の親族と親戚一同。
そして招待客である会社の役員やご友人方が列席していた。並びに人型アンドロイド各位も拍手喝采を送る。
黒服を着た会社の役員にアンドロイドという異様ぶり、なんか怖いくらいだ。
『あっ始まりました! 新郎新婦の入場です!」
――出入り口の両扉が勢いよく開かれ、
新婦だけ先に入場する。
白のベールに身を包んだ見た目年齢20代の綺麗な人だ。
両隣には、彼女のお父さんとアンドロイド。
が、お父さんは相当なご年齢を召されている。
新婦の道を照らすように、色々な光が灯る一直線の道。
式場の壁に取り付けられたモニターも様変わりし、彼女の半生を記したメモリーが流れる。
この世に生を受けた時から小学校の入学式、卒業式。
小学生から社会人になるまで様々なメモリーが流れる。
他にも、家族旅行や趣味。1人で料理する場面まである。
役員会議、重要取締役の場面も。
この時、んんっとなるぐらい彼女の見た目年齢とメモリーが噛み合わなくなる。こっこれはまさか……。
先に、式典上を読み上げる神父型アンドロイドの元に辿り着いたのは、花嫁の方だった。
――遅れて、新婦の入場だ。
激しい光と音楽が流れる。
聞く人によれば、うるさいくらいだが、これが今の当り前。
式典上の天井部がシュゴ――ッと開口され、音を立てて新婦の入場だ。
その背にはフライニングジャケット。
粋な演出だ。
フライングジャケットの排煙口から青い炎が噴き出し、会場中を一周し、ゆっくりと新婦の横に並び立つ新婦の姿。
その直後、この瞬間を待っていましたとでも言わんばかりに、歓声と拍手喝采の嵐が起こる。
とここで新郎新婦の足元がきらびやかに光り、色取り取りの花が乱れるという粋な演出が施された。
桃、紫、緑、赤、青、黄、橙と移り変わり、花柄も色取り取りだ。
そして、彼女のメモリに付随すように、彼の半生を記したメモリも、付け加えられる。
――式典上を読み上げるのは、もちろん、人ではなく。神父様の姿を模した、神父型アンドロイドの役目だ。
『健やかなる時も、苦しい時も、病に伏した時も、彼に寄り添い、支える決意はありますか!?」
「あります」
「汝、彼女のつわりが酷い時、傍にいてくれますか!?
出産直後、弱った彼女の手を握り、優しい言葉を、かけてくれますか!?
一緒に子育てをする、勇気、覚悟はございますか!?
子を養う、父親としての責任事情、諸々は持てますか!?」
「……」
これには、新郎の表情が歪む。
明らかに花嫁とは仕様が異なる、こんな常套文句あり得ない。これは、まさか彼女が。
「……」
にっこり微笑む花嫁。確定的だった。このクソ野郎。
「……ッッ」
「……」
新郎の顔が引きつる。正直に言えば、今すぐこの場から逃げ出したい衝動にかられた。
だが、再び、彼氏に振り向く花嫁の笑顔を見て。
ニコリと花を咲かせる新婦の姿。それはもう、強かであるようで。
「……ッッ……ッッ」
あぁもう、ついに彼は、心が折れたみたいに了承の意を示す。
「……はい……ッッ」
この瞬間、式典上の興奮度(ボルテージ)が最高潮に湧きあがった。
騒ぎ、沸き立つ歓声、拍手喝采の嵐。
「では、御両人! 婚約指輪の交換を!」
決め文句を告げる、神父型アンドロイド。
その手には待ってましたと言わんばかりに、豪奢な台座を持ち上げる。
その台座には、納められた二対一組の結婚指輪があった。
両者、そのアンドロイドから、用意してあった婚約指輪を受け取り。
互いに、相手の薬指に指しはめ込んでいく。だが、この時、新郎の顔は苦かった。
『今ここに、新たな家庭が築かれた!このめでたき日に、祝杯をっ!!!」
騒ぎ、沸き立つ歓声の嵐。
そして、再び、騒ぎ出す光と音楽の空間。
その式典上のステンドグラスが灯り。
どこからともなく、手にラッパを持った天使達が現れるのだった。
陽気な音楽と明るい招待客達。
祝杯を持った天女様が、再び、どこからともなく降り立ち。
それを両者に分け与える。
トクトクと2人の盃に婚約の酒が注がれる。
新婦はそれを先に飲み干し。次に新郎がさんざん考えあぐね、このクソッと盃の中身を飲み干すのだった。
――その光景を見て、お茶目で明るい人型アンドロイドサチヨは。
『見てください。羨ましいですね~ぇ。私もいつか、あんな殿方と……ポッ』
と、頬を紅潮させる人型アンドロイド。
その肌はきめ細かい、人肌に似せた人工肌のそれだ。
――新郎新婦はこの日、この瞬間、生涯を誓い合う接吻を交わし合うのだった。
拍手喝采が上がる。
光と音楽の音も激しく鳴る。
手持ちのラッパから、パンッという小気味のいい音が鳴り、花が彩られる。
「……ッッ」
この時彼は、内心苦心していた。
脱力していた手に力を込め、握り拳をワナワナとさせる。
速い話が、彼はこの会社にハメられ騙された上に、既成事実を作られたのだった
某TVスタジオ内の男性TVアナウンサ。
「――現場のサチヨさん。ありがとうございました!」
――現場で、明るく元気よく手を振るサチヨの姿があった。
「と、ここで朗報です! たった今、入手した情報によりますと、無事、宇宙探査機は、次元トンネルを通過したとの報せです! これが、その時の映像です!」
宇宙探査機はロケットを分離し、地球側の方に残して去っていく。
ロケットの使用目的は、宇宙探査機だけでは、地球の大気圏を抜け出すことができなかったからだ。
その為のロケットエンジンがどうしても必要だった。
宇宙空間を飛んでいく宇宙探査機。
その行き先は次元トンネルであった。
次元トンネルは、近代文明の集大成ともいえるもので、なんと数億光年離れた銀河まで、ひとっ飛びできるのだ。
ただ、まだ理論上では可能だとしても。人を乗せた経験がないので。
こうしたデモンストレーションの場を借りて、AIナビを送らせているのだ。
次元トンネルのそのワープゲートが起動し、宇宙探査機を迎え、数億光年離れた銀河まで、ワープさせたのだった。
行き着く先は、遠く離れた銀河、天の川銀河のお隣、アンドロメダ銀河である。
☆彡
――そして、あの場面。
本来であれば同刻時、それは狙いすましたかのように、新郎新婦がキスをする映像と重なるのだった。
「いや~歴史的瞬間ですねぇ~」
『はいっ! 同じアンドロイドとして、誇らしい限りです!』
にこやかに笑みを咲かせる人型アンドロイド。
そして、私達TVアナウンサー。
☆彡
【修学旅行中のバス】
僕スバルは、その映像を腕時計型携帯端末を通して視聴していたのだった。
とその時、僕の隣で寝ていたアユミちゃんが、「くぅ……くぅ……」といかにも気持ちよさそうに寝息をたてていた。
そう、今僕達は修学旅行中の身だった。
【スバル(11歳)小学6年生男子生徒】
その容姿は、まだまだあどけない外見の男の子で、短髪、黒目。
その服装は、薄地のロゴ入りTシャツにジーンズ。
【アユミ(11歳)小学6年生女子生徒】
その容姿は、まだまだあどけない外見の女の子で、栗色の長髪。黒目。
その服装は、薄地の花柄入りのワンピース。
「……フッ」
「くぅ……くぅ……」
僕の隣にいて、僕の膝枕の上で寝ているのは、幼馴染の同級生アユミちゃん。
アユミちゃんはクラスでも人気者で、僕が淡い恋心を秘めた可愛らしい少女。加えて豊胸である。
今は僕が相手だからか、安心しきったかのような顔で、寝息を立てている。
僕は、彼女を起こしてはいけないとわかりながらも、いつもの慣れた習慣からくるものなのか、その流れるような黒髪を一房撫でてあげた。
彼女の髪は、とてもきめ細かく優しい肌触りで気持ちよかった。こうして何度も触りたい衝動にかられる自分がどこかにいる。
「うぅ~ん……」
と寝返りを打つアユミちゃん。その豊かな胸部がぷるんと揺れる。
僕の目はそれに釘付けだ。
触りたい。今すぐにそれを揉みたい。揉みしだきたい。
僕は周りを見た。
隣では女子2人が相席していて、時々こちらをチラチラ見てくるのだ。
行動に移るのは断念した。なんか残念……。
でも、せめて、その豊かな胸部をこの瞬間だけは目に焼き付けておきたいと思った。
それにアユミちゃんから漂う、この甘くていい匂い。
頭がボッとして変になる、僕なんか変だ。
――そうして、僕達を乗せたスクールバスは、高速道路のトンネルを抜けて、サービスエリア内に入り、途中下車したのだった。
TO BE CONTIND……