ー リラは爪弾かれる(4) ー
パーンッと弾け飛ぶように割れる
(こんなにキレる兄貴を見んのも久々だな……)
「び……っくりしたわ。ありがとう、ユング」
「いや、俺も兄貴と同じ気持ちだよ。……胸糞悪ぃ。とりあえず、音だけ拾うぞ」
会談の様子を投影していた
「テュール、ユング、私も同じ気持ちよ。私達の愛するあの子を……。餌に、だなんて」
自分の愛娘が軽んじられたのだ。その怒りは至極当然だろう。ユングヴィは、手紙でしつこくノルンを寄越せと名指しでせがんできたブレイザブリク皇帝よりも、それを止めることができなかった自分に歯噛みした。名目上は、あくまでも『フリュールニルの戦乙女』への褒章授与のための謁見だ。断り続ければ、
「はっ、まあ想定の範囲だろうよ。クソ野郎が。あの場にジジイがいるからあんな風に言えるんだろうな」
「……そうね。お爺様はあの程度の無礼では動じない方。どうやら、私達が付いて行くのを止められたのは、正しい判断だったようね」
テュールの固く握りしめられた拳を解くように、フォルセティはそっと手を重ねた。テュールは、一瞬鋭く息を吸い込むと深く吐き出す。
「……。すまない」
「弁償しろよ」
「
「もう、そうじゃないでしょ‼」
重ねた手をバシッと叩かれ、テュールは叩かれた場所をさすりながら、ふっと笑った。
「速度は威力だな」
「なによ、文句があるの?」
「いや……。お前がいて、よかった」
指の背で頬を撫でると、フォルセティは桃色に染まった目元を隠すように、ぷいっとそっぽを向く。
「おい、俺の前でイチャつくんじゃねえよ。バカ夫婦が。ノルンが飛んでもねえこと言い始める前に、アレウスに指示しろよ」
「ちょっと、自分が王妃様と一緒に居られないからって八つ当たりはやめてもらえるかしら?」
テュールと違い表情豊かなユングヴィだが、目付きがやや悪くワイルドな印象を与える。しかし、その風貌とは裏腹に大変な愛妻家で王妃をとても大切にしているのだ。本人は魔王としての威厳を保つためだのなんだのと理由を付けて隠したがっているが、この兄にしてこの弟ありである。愛情深さはとてもよく似ている。
「ばっ、そんなんじゃねえし‼」
「うるさい。向こうの声が聞こえんぞ」
「
兄弟と幼馴染。数百年変わらぬその深い絆で、ずっとノルンを守ってきた。
美しく成長したノルンは、芯が強く一途な性格に育った。しかし同時に、自己犠牲を厭わない危うい側面を併せ持っている。無意識に
————どうか、早まらないでほしい。
ミュルクヴィズに残る者、共にブレイザブリク帝国へ向かった者。ノルンを愛する皆が願うことは、ただ、それだけだ。