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 夢を見た。

 あの後、恐らく魔法の使い過ぎによって私はまた倒れてしまった。
 だからこれも夢に違いない。

 実際真っ白な空間にぽっかり私は浮かんでいるし、目の前にいる白い竜の人は高らかに笑っている。
 そんなのは夢以外にあり得ない。

 早く目覚めた方がいいのかこのまましっかりと休んだ方がいいのかは私にも分からないけれど、とにかくこれは夢に違いない。

「さて、乙女よ。神託を授けにまいりました!!」

 私の願望が夢になったとしてもこの配役は無い。
 見た目は確かに神々しいけれどこれは全く神様のイメージからほど遠い。

「いやいや、サラさん俺は本物よ?」

 その人は目を細めて笑った。
 この人も何か大切なものがあって大人になった人なのだろうか。もしかしたら自分自身が好きで大人になったというのはこの人の事なのかもしれない。

 そう思っていると、軽薄な表情がごっそりと抜け落ちてそこに残ったのは端正な顔立ちなものの無表情の顔。

「俺の大切なものは、伴侶ただ一人だけだよ」

 話す声も軽薄からは程遠い。けれど、べっとりと張り付くような甘ったるい声。

「俺の伴侶はいずれ紹介しよう」

 そう言った直後、彼の表情がまた笑顔になる。
 今はそれが張り付けたものだと分かる。この人は態とあの軽薄さを作っているのだと。
 これは悪い夢だろうか。
 私には分からない。

「約束の乙女。ってなんの“約束”かしっているかい?」

 軽薄な声で軽く聞いてくる。

「いつかこの地を訪れるという約束を交わされたのですか?」

 この国に私が来ることはあらかじめ決まっていた様だ。
 であれば約束はそこにかかっている言葉だろうと思っていた。
 恐らくマクスウェルもそう思っただろう。

 あの故郷との繋がりで分かったことはそれだけに近い。

「ぶっぶー。残念だったね」

 神様を名乗る白い竜は違うと言っている。

「ではどのような約束が……」
「盟約は昔々、まだ神々が地上にいた頃にあったんだよ」

 曰く、私の祖先が交わした約束。
 曰く、それはエムリスの王族の祖先ではなく。
 曰く、その時王になるべき人間に特別な剣を与えるというものだった。

 私は言っている意味がよく分からなかった。

「約束の乙女よ。その血を引く美しき髪を持つ乙女」

「王は何故王に慣れるのだと思う?」

 問われた問いに私は答えられなかった。

 自分で王と名乗れば王となれるのか?
 それとも力が強ければ王になれるのか?

 どちらでもない。それであれば騎士なんてものは皆王に成れてしまう。

「それは昔も変わらない。王である証明が必要だった」

 けれどそれはなされなかった。
 その人は王のための王の剣を渡す予定だった。

 けれど邪魔があった。
 剣は渡せず、この国とエムリスは分かたれてしまった。

 王は王となれずこの国はそのまま孤立してしまった。

「だからね。当時、王になるべき人の血脈であればだれでもいいんだよ。剣を渡せば」

 古き盟約を果たせば、それでいいんだ。

「良き王というのはどういう人だと思う?
まあ、俺みたいにハンサムっていうのでも別にいいんだけどね!!」

 自分で言えるところはスゴイと思った。
 それに見目が麗しいというのは国民感情として悪いことではない。
 それが唯一絶対の条件かと言われれば違うけれどあるに越したことはない。

 カリスマ性。執政能力。浮かぶものはいくつかあった。
 けれど一言で言えるような答えは無い。

「ね。別に誰でもいいんだよ」

 能力に欠けがあったとしてもそれは誰か別の人間が補えばいいんだから。

 と言われても実際に誰でもいい訳ではない。私が明日から王をやれと言われても無理だと思う。

「約束のおとめ。(いずみ)の乙女。君は約束を果たせばいい」

 後は君の幸せを考えてね!! 俺は俺の幸せと愛する伴侶の幸せだけを考えるから!!
 そう言ってその人は笑った。

「あなたは、私の国でいうところの神官なのですか?」

 そんな大層なものではないですよ。その人は笑った。

「王が決まったらこの国はどうなりますか?」

 ニンマリ。と面白そうに彼は笑った。それから、すうと息を吸うと「王が決まればこの国は他の国からきちんと認識できるようになるだろうね。国の名前が外の国の人にも認識されるようになって、国交が生まれる」と言ってから、やったね君も故郷と行き来できる!!と軽い調子で言った。

「それだけだよ。
たったそれだけの事だ。
君が心を砕く必要は何もない」

ただ、君が信頼できる人に剣を渡せばいい。

「神様としてはそんな気持ちだよ!」

アイスブルーの瞳が優し気に細くなる。


「さあ、神託はなされた。
湖の乙女だと言えばこの国の人間はきっと黙るから、いっちょやったれってね!!」

相変わらず変な人だ。
どこまでがご神託でどこまでが軽口かが分からない。



けれど目が覚めると、それがただの夢じゃない事は不思議と分かっていた。

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