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2話

鏡の中の己から目が離せずに、一体何がどうなったのかと思考をめぐらせる。
会社帰りに交通事故で死んでしまい、生命を司るという女神と話し、宇宙のような空間で光に引っ張られてここへ来た。いや、この世界に、かな?そして彼…ハロルドに連れられてこのカフェのような場所へやってきた。
どこでどうしてこうなったのか、皆目検討が付かない。
…ハロルドに出会うまでが信じられない体験ではあるが、まさか、まさか…

「ネ、ネコミミがある!?うそ、なんで!?」

この世界にたどり着いて初めて見た鏡に映るのは、生まれて死ぬまで付き合ってきた顔に間違いない。
今更だが慌てて下を見る
最後に着ていたのは会社帰りでもあったのでスーツだったはずだが、今はシンプルなブラウスにカーディガンを羽織り、あまり履いたことのないようなロングスカートを履いている。靴はローカットブーツだろうか。スーツより歩きやすかった。

いや今は服装より頭に生えてる?乗ってる?どちらか分からないネコミミだろう。
巡らせていた思考をネコミミへ戻す。
まず初めに思いつくのは、誰かにイタズラでネコミミ付きのカチューシャでもつけられた事だ
しかし誰が…。ハロルド…には帽子を被せられたが、カチューシャをつけられるタイミングは無かった。はずだ

とりあえず外そうとネコミミに手を伸ばす。
フサフサとしたそれはまるで本物のようにピクリと動く。
ビクリと手が止まる。恐る恐る触れると、僅かに体温を感じるのに加えて、まるで自分の耳を触っているような感触に、結論へたどり着く。

「ほん、もの…?」

自分の現状に気がついてから結論へたどり着くまで、さほど時間はかからなかったはずだ。
ハロルドはまだクツクツと笑っている。

「そう。それは君、ココロの耳だよ。もちろん、俺のこれも同じ」

ハロルドのウサミミは雪うさぎのように真っ白。フワフワとしていそうだ
そしてココロのネコミミは茶色がまじった黒。こちらは触ればフサフサとしている

「でも驚いたな」
「何に?」
「今まで見てきた子達は、もっと取り乱してたけど、ココロは冷静だね」
「そう?」

自分では分からない。あまり慌てた事が無いから実感が無いが、これでもかなり混乱していたと思う。

「うん。体は動かさずに、顔だけキョロキョロ動かしながら百面相してたぐらいだよ」
「う…」

それはつまり、表情に出ていないだけと言う事だろうか。
思い当たる節はあるどころか、あまり思い出したくない事だ。

「まぁ、街でも見たでしょ。耳持ってる人」
「あ、そー言えば…」

路地裏から顔を出した時のことを思い出す
あまり多くはなかったが、チラホラと動物耳を付けてる人を見かけていた。

「あの中の何人かは、ココロと同じだよ」
「へぇー…えぇ!?」

あまりにもサラリと言うので、聞き流すところだった。
目の前にいるハロルドは、なんでもない事のように笑顔を浮かべている。

「えっ、それって一体、どういう事!?」
「そのままだよ。経緯は違うだろうけど、生まれ育った世界で突然命を終えてしまった人が、同じようにこの世界へ送られて来るんだ」

ハロルドの話によると、世界は沢山存在する。
世界によって雰囲気は違ってくるらしい。
のんびりした世界
殺伐とした世界
規律だらけの世界等、いろんな世界があるという

共通するのは、ココロの出会ったような(女)神が存在し、望んだ雰囲気の異世界へ送り出してくれる事。
世界が意志を持っていて、送られてきた魂を受け入れられるか見定める事。
そして、地球が元となっている事。

一番最初に誕生したのが地球だからだと言う
地球にはのんびりした国や殺伐とした国、規律だらけの国等、色々ある。
あとから生まれた世界は、それぞれに気に入った国の雰囲気を模写して世界を形作ったそうだ。

「で、送られてきた魂はこの世界で再生する際、ランダムに動物耳…というより、動物の魂を移植される」
「移植?」
「そう。命を落とした時に魂を破損してしまってあるから、それを補っているんだ」

ちなみに他の世界ではどうしてるかまでは不明だそうだ
そこで1つの疑問

「なんで動物なの?」
「ん?世界の趣味。この世界、動物大好きだから、同じタイミングで命を落とした動物を拾い上げてるんだ」
「だからネコやウサギなのね」
「あ、ちなみに俺はこの世界の生れね。これ、遺伝するから」
「へぇー」

もう何を聞いても驚かない自信がある。
何やら、色んな事情にも詳しそうだ。試しに、なんでか尋ねてみた。

「あ、言ってなかったっけ。俺、導き手だから」
「ハァ!?」

言われたでしょ?世界に。という言葉は、ココロの叫び声にかき消された

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