ツンデレじゃない
次の日。
午前の授業を終え、席を立とうとした所、
「ちょっと待った」
隣に座るリコリスが気になったのか話しかけてきた。
彼女は訝し気に目を向けてくる。
「…………何すか」
「ねぇ、その紙、何の紙なの? 何書いてるやつなの?」
「これか? これはあれだよ。チーム決めの紙だ。人数も規定内になったし、提出しようと思ってな」
「へぇ……」
「ほら、俺とリコリス、ラクリアの3人がいるし、チームとして成立する。もう他に入れる人もいないだろうから、先生に提出しようと思って………おいっ!」
説明していると、リコリスは紙を俺の手からすばやく取り、大事そうに紙を身体で隠す。
「何してんの! 5人まで入れていいんでしょっ! なら、あと2人集めてよ! これじゃあ、ネルしかおもちゃにできなさそうじゃない!」
「お前こそ何いってんだよ! 俺はお前のおもちゃじゃあねぇ! その紙返せ! どうせ他の人たちはすでにチームに入っているだろうし、俺たちのチームに入るような人はいなんだから、早く提出しておきたいんだよ! だから、その紙返せっ!」
「いや! 絶対いや! 5人集まるまでこの紙は出さないの! このチームに入ってくれる人を探すの!」
「じゃあ、あたしをチームに入れて」
言いあっている俺たちの後ろに彼女が立っていた。
アスカはニコリと微笑みかけてくる。
「あんたたち、チームメイトを探しているんでしょう? だったら、あたしを入れて」
俺とリコリスは目を合わせ、そして、再度アスカを見る。
「「嫌」」
「なんで!?」
「「なんとなく」」
「なんとなく!?」
取られまいと、必死に紙を守っているリコリスが小さく呟いた。
「アスカはあまりいじりがいがなさそうだから、他の人にしたい………」
「………」
「ご、ごめんね? 別にアスカのことが嫌いっていうわけではないんだけどね? ただアスカは本当にいじっても面白みがないというか、ツンデレは私と相性が悪いというか」
「………あたし、ツンデレじゃないんだけど」
さっきから黙って見ているやつがいるが……。
俺は1人楽しそうに見物している赤髪女に声を掛けた。
「おい、ラクリア。お前もなんとか言ってくれ。………てか、なんでサングラスかけてんだよ」
初めて会った時のラクリアは、確かにサングラスをしていた。しかし、学園に来てからは彼女がサングラスをかけた姿は自己紹介の時以外見ていない。
「これかーい? これはねぇ、学園の許可が下りたから付けているんだYO。私はサングラスなしでは生きていけない人間だからねぇ」
「昨日までサングラスつけてなかったじゃねーか」
そう突っ込むと、ラクリアはスルーして、「アスカはね………」と話を続ける。
「私の意見としては入ってもいいと思うYO。だって、アスカはどんな魔道具を作れる。そうそうこんな人現れないと思うYO」
「………」
「チーム戦の時はかなり有利になると思うんだYO。魔道具は私たちの魔力消費を抑えてくれそうだYO」
「……確かにな」
ゼルコバ学園の生徒の大半が目指しているのは魔導士。一方、アスカは目指す者が少ない魔道具技師だ。
その分だけチーム戦では戦略が増える。となると、別にアスカを入れてもいいのでは?
俺はアスカとギャーギャー言いあっているリコリスからさっと紙を奪いとる。そして、机に置いておいたペンを手にとった。
「あぁー! ネル! 紙を返して! ………ちょっと何やってんの? アスカに差し出して………ってまさか!」
「アスカ、よろしくな」
俺は、ペンと紙をアスカの方に差し出していた。アスカはこちらにニコリと笑いかけ、ペンと紙を取る。
「こちらこそよろしく」
「ああぁぁー!!」
リコリスが叫んでいる間に、アスカはスラスラと名前を書き、紙を返してきた。見ると、ラクリアの名前の下の欄には、アスカの名前。
よし。これでチーム戦での成績は困らなそうだな。
「なんで! なんで、ネルはアスカを入れたの! こんなちびっ子を入れたのっ!」
「………誰がちびっ子ですって?」
涙目で訴えてくるリコリス。眉間にしわを寄せているアスカ。
これからここで何が起きるか想像がついた俺はラクリアに声をかける。
「そろそろ食堂にでも行くか」
「そうだねぇー」
子どもみたく言いあっている2人を置いて、俺はラクリアと黙って教室を出た。