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おじいちゃん

 おっさん化したリコリスは、「あんたの魔法をかけられるのはこれ以上嫌!」と言い張るので、自分でなんとか変身魔法を習得し、いつも通りの姿に戻していた。もちろん、角は消した状態だ。

 その日の夕食、俺は親父とリコリスについて話し合った。彼女が悪魔であることを伏せて、再度彼女が俺の弟子であること、1人で行くところがないことなどを話した。

 リコリスは弟子であることを頑なに否定していたが、面倒なので無視。
 結局、俺が不在の状態でずっと俺の実家(ここ)にいても仕方がないので、リコリスも入試試験を受けることになった。

 悪魔が学園なんかに通ってもいいのだろうかと思ったが、誰もリコリスが悪魔であることに気づいていない。きっと、こんな小学生みたいな脳の女が悪魔だとは思えないのだろう。

 そうして、次の日から俺たちは、入試試験に向けて勉強に励んでいた。試験は秋にあるが、1度受けている俺は勉強方法が分かっていたので、困ることはない。

 問題は悪魔女………なんて考えていたが、それほど大きな問題ではなかった。
 リコリスは、意外にも勉強ができ、分からないところがあっても、俺が教えてやるとすぐに理解していた。

 普段の生活も頭いい子ちゃんでいてほしいぜ………。

 再入学ってことは、メミたちの後輩になるってことだが、それでもいい。
 技術試験に困らない、普通の学園生活を送れさえすれいいんだ。
 
 リコリスとともに勉強し始めて、数日たったある日。

 突然、親父に「ちょっと学園に行ってこい」と言われた。
 なぜ行かないといけないんだ? と問うたが、親父はにひひっと笑うだけで、はぐらかされた。

 ………まぁ、休憩がてら、外に出かけるのもいいか。
 そう考えた俺は、リコリスとともにゼルコバ学園に向かった。

 夏休みに入っているので、学生はほとんどいない様子だった。かなり静かで、草木の揺れる音やセミの声が響いている。
 懐かしいな………。

 俺は学園の校門をじっと見つめていると、赤髪ボブヘアの少女が目に入った。彼女は、ルンルン気分で校庭を歩き回っている。その様子を観察していると、最終的には華麗なバレエを踊っていた。
 ………学生服着ていない。学園関係者だろうか?
 
 学園に来たとはいえ、俺たちは、部外者であるため、赤髪の少女のように入ることはできない。今日は校門を見るだけだ。
 そのことに不満だったのか、リコリスはプクーと頬を膨らませている。

 「せっかく学園に来たのに何もしないの?」
 「ああ。俺はこの学園の学生じゃないから入れない。手続きを取れば、入れてくれるだろうけど、入ったところで用はない」

 ほんと、なんで親父はここに行けと言ったのやら。
 親父の考えが分からず悩んでいると、リコリスは、にひっと笑みを見せてきた。

 「バカ、用はあるじゃない」
 「え? ないと思うが?」

 試験の時に用があるくらいだ。今日は何もない。
 俺が首を傾げていると、リコリスは呆れ顔で、言った。

 「分かんない? ここはLv.9000越えのあんたを追い出した学園なのよ? することは1つに決まってる! この学園をドカーンと爆発することよ! ドカーンと一発復讐ってね! アハハっ!」

 両手を広げ、げらげらと大笑いをするリコリス。
 すると、校門前にいた見張りが、リコリスの声に気づき、こちらに目をギラリと向けてきた。

 「おい、そこの君。爆発とか言っていたが、何をしている」
 「あ、ええと………」
 「この学園を爆発させにきました」

 口籠っていると、リコリスが真顔でどストレートに答えた。
 んがあぁっ! 何言ってんだよ! この悪魔女!

 見張りの男はキッと睨みを向けてくる。俺もリコリスを睨みつける。
 しかし、悪魔女は、キョトンとして首を傾げるだけだった。

 こんのぉ………。
 悪魔女がどうしようもないと判断した俺は、作り話をし、見張りの人に笑顔で説明した。

 「あ、あの………この子、学園に入学しようとしているものなんですが、ちょっとばかし爆発魔法が好きすぎて、学園を前に興奮しているんです。失礼しました」
 「何言ってんの? ネル? 私は本気でばくは………」
 「さ、行くぞ」

 これ以上リコリスが変な発言をしないよう、俺たちはすぐに校門前から立ち去った。

 「おい、お前何してんだよ。変に目をつけられたじゃないか」
 「別にいいじゃない。爆発させちゃえば、学園もろとも一緒に消えていくんだから」

 さすが悪魔。復讐に置いてはやることがぶっ飛んでいる。
 俺は、校門へと戻ろうとするリコリスの手を引き、学園の付近を適当に歩く。数分歩いているうちに、悪魔女の興奮は収まり、大人しくついて来ていた。

 十分に散歩したし、そろそろ帰ろうか………。
 家に戻ろうとしたその時、背後から声を掛けられた。

 「そこの君」

 振り向くと、そこにいたのは1人のおじいちゃん。
 あごひげが長い、灰色髪のおじいちゃんだ。一見弱々しく見えるものの、どこか不思議なオーラを放っていた。

 「えーと、どうしました? お困りごとでも?」
 「いいや。困ったことはないんじゃが、君に用があっての」
 「用?」

 俺は、このおじいちゃんに会った記憶などない。
 一体誰だ………?
 警戒心を抱いていた俺を察したのか、おじいちゃんは思い出したかのように話し始めた。

 「おぉ………名乗り忘れておった。わしは、コンコルド・セッラータという者じゃ。君はネル、ネル・モナー君だろう?」
 「はい、そうですが………」

 俺の名前を知っている………………本当に誰だ?
 コンコルドという名は、どこかで聞いたことがあった。しかし、このおじいちゃんの顔は見たことがない。

 隣にいるリコリスは「この人、おもちゃにできそうにないわ。なんか変なオーラを感じるもの」と話しかけてきたが、とりあえず無視。

 俺は、自分の記憶を必死にたどり、数秒間考えていると、ふと思い出した。
 おい、ちょっと待てよ………コンコルド・セッラータだって!?

 「何驚いた顔をしてんのよ? ネル、このおじいちゃんと知り合いなの?」
 「………知り合いではない」

 知り合いではない………それは事実。もちろん、会ったこともない。
 だが、俺はこのじいちゃんの名を知っている。学園に通っていた者が知らないはずがない。

 「ねぇ、あんた誰?」

 リコリスは、訝しげな顔を浮かべ、尋ねる。
 すると、おじいちゃん………いや、セッラータ先生は、丁寧に頭を下げてきた。

 「悪魔のお嬢さん、これはこれはどうも。わしは、ゼルコバ学園の学園長をやらせてもらっているものじゃよ」

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