オネの弁当 その1
どうにか僕が元いた世界で言うところのクリスマスにあたるパルマ聖祭の日に販売するパルマ聖祭ケーキの予約分の準備がほぼ完成しました。
予定より1週間近く早い完成です。
これはひとえにオトの街のラテスさんとヨーコさんのおかげです。
パン焼き釜を所有しているというこの2人にスポンジケーキの作成を依頼したところ、当初の予定の3倍近い勢いで焼き上げてくださったおかげで、作業がすごく捗ったんですよ。
ケーキは、すでにデコレーションも終え、箱詰めも終えて専用の魔法袋に入れて保存してあります。
5日前から渡し始めまして、パルマ聖祭前日まで配布します。
パルマ聖祭当日は、休日ということもありお店もお休みしますので、前日までに取りにくるよう予約されている皆さんには周知してありますけど、大丈夫かなぁ……
ちなみに、パラナミオのポスターをおまけにつけたところ、すごい量の注文数を記録しているテトテ集落には、パラナミオを連れて行って手渡ししてあげるゲリライベントを予定しています。
そんな感じで、パルマ聖祭関連の準備もほぼ出来ましたので、今度はパラランサとヤルメキスの結婚披露宴の準備を進めないと、と思っている次第です。
すでに、料理に関してはコンビニおもてなし食堂エンテン亭の猿人4人娘達と打ち合わせがほぼ済んでいまして、コース料理をお出しする予定にしてあります。
で、締めのスイーツだけはヤルメキスが自作してですね、当日披露する予定なんですよ。
ヤルメキスは、コンビニおもてなしの営業時間終了後に、この披露宴用のスイーツ作成に勤しんでいます。
そんな中、僕はフと思いました。
「この世界の年末年始って、どうなってるんだ?」
そもそも、新年の概念ってあるの?
そこで、僕はまず本店の店長補佐ブリリアンに聞いてみました。
「年末年始はありますよ。トゥエの月の月末30日が年末で、オネの月の1日が年始になりますね」
ちなみに、トゥエの月が、僕が元いた世界で言うところの12月、オネの月が1月にあたります。
この世界は、1ヶ月がすべて30日で統一されていますので、年末はトゥエの月の30日ってことになるんですよね。
「で、その年末年始は、みんなどう過ごしているんだい?」
「だいたい、トゥエの月の29日からオネの月の3日までお休みなのが一般的ですが、酒場や宿は休みなく営業していますね。
一般家庭はトゥエの月の29日までに家や店の掃除を済ませ、30日は家族でのんびり過ごします。
オネの月の1日は、日の出を家族みんなで眺めた後はのんびりすごすのが普通ですね」
「オネの月の1日に、何か特別な料理を準備したりするのかい?」
「特別かどうかはあれですが……「オネの弁当」を準備しておくのが常ですね」
「オネの弁当?」
「はい、日持ちする料理を弁当状態にしてつめて置いて、トゥエの月の30日とオネの月の1日に料理をしなくて済むようにするんですよ」
なるほど
僕が元いた世界で言うところのおせち料理らしき物が存在することがわかりました。
ちょうどパルマ聖祭ケーキの作成も一段落しましたし、今度はこの「オネの弁当」をやってみようかと思ったわけです。
で、そのオネの弁当の中身についてですが、独身のブリリアンより家庭を持っている人が準備するオネの弁当を参考にした方がいいかなと思いまして、4号店のクマンコさんに話を聞きました。
クマンコさんは、母子家庭の子だくさんです。
「うちはぁ、子供が多いですンでぇ、とにかく量を多く準備するんですぅ」
そう言うクマンコさんが教えてくれた、クマンコ家のオネの弁当の中身ですが、
すっごく普通でした。
ご飯をおにぎり状態にした物を大量に準備しておいて、おかずとして野菜炒めや煮物を多めに準備しておくだけなんだとか。
僕が元いた世界で言うところの、めでたいの鯛の塩焼きや、長寿祈願のエビといった縁起を担ぐ料理は特に存在していないそうです。
ちなみに、新婚のルアと、もうすぐ新婚のヤルメキスにも話を聞いてみたところ
「アタシは、コンビニおもてなしの弁当を多めに買っておこうと思ってるよ」
と、ルア。
「お姑様が、『今年のオネの弁当はコンビニおもてなしのお弁当で、おばちゃま良いと思っているのよ』と言ってくださってごじゃりまする……あ、スイーツは作りますでごじゃりますけど」
と、ヤルメキス。
ふむ。
となると、いつものコンビニおもてなしの弁当の量を増やした物を考えたらいいのかな……
などと考えながらも、まぁどうせやるのなら、少し豪華なオネの弁当も準備してみたらどうかな、と思った次第です。
そこで、僕はオネの弁当を準備するにあたり、2本だてで作戦を考えました。
まずは、いつものお弁当の量を増やした物を予約販売。
主に、焼き肉系のお弁当を中心に増量した弁当を作ってみようと思っています。
次に、コンビニおもてなし版オネの弁当の予約販売。
この世界の食材を使用した簡易なおせち料理を作成してみようと思っている次第です。
とりあえずすぐに思い浮かぶ物として……
伊達巻きは、ララコンベから仕入れている卵があるのですぐ作成出来ます。
かまぼこも、すでに試作品が出来ていますので、これもなんとかなるでしょう。
ブリの照り焼きの代替え品として、かなり在庫がストックしてあるウルムナギを照り焼き風にして、あとは、タテガミライオンの肉を焼いた物や、ウインナーをつめていくとして……
で、どうせなら鯛かエビの塩焼きは入れたいなと思うわけです。
これはもう、日本人の性とでもいいましょうか……
というわけで、僕は早速転移ドアをくぐっておもてなし商会ティーケー商店街店へと移動していきました。
ウルムナギ以外の海鮮類はここでないと入手出来ませんからね。
そこでファラさんに事情を説明しまして、コンビニおもてなしに残っていた昨年のおせち料理のパンフレットを見せながらその中に写っているエビと鯛を説明していったのですが……
「そうですね……この鯛と言われる魚介類に該当する魚はいませんが、エビと言われる魚介類なら存在しますわ」
とのことでした。
「で、そのエビはどうやったら手に入るんだい? アルリズドグ商会から仕入れることが出来るのかな?」
「いえ……こいつはそう簡単にはいかないでしょうね」
そう言うと、ファラさんはおもむろに眼鏡を机上に置くと、
「まぁ、私に万事お任せくださいな」
そう言い、店を出て海岸まで歩いていくファラさん。
で、そこでファラさん、おもむろにリヴァイアサンの姿に変化していきました。
『デハ、チョットイッテキマスワ』
リヴァイアサン化したファラさんはそう言うと、おもむろに沖の方へ向かって行きました。
しばらく後
……気のせいでしょうか
なんか沖の方からすごい音が聞こえ始めた気がします。
まさに、南海の大決闘とでもいいましょうか……巨大な生き物同士が戦っている……そんな音がしているような気がします。
で、待つことしばし
程なくして、そのバトル音が聞こえ無くなったかと思うと、沖からファラさん~リヴァイアサン形態~が戻って来ました。
よく見ると、何かでっかい物を肩に担いでいます。
で、海岸に戻ってきたファラさん~リヴァイアサン形態~は、その肩の荷物を海岸にドサッと置きました。
そこには、確かにエビがいました。
体長50mはあるでしょうか……
かなり大きいリヴァイアサン化しているファラさんと同じくらいのでかさをしています。
……あの、ファラさん……こんなデカいの……オネの弁当にどうやって使えば良いんでしょうかね?
やっぱり身をそぎ落として……
そんな事を思っていると、ファラさんは息絶えているエビラ~仮称~のお腹の辺りを鋭利な爪で裂いていきました。
すると、その中には僕が知っているサイズのエビがすごい量詰まっているではありませんか。
ここで、人型に戻ったファラさんが説明してくれました。
「こいつはエビランというのですが、成人化したこいつに食べられる所はほとんどありませんが、雌が孕んでいるこの子供達は、店長が言われている塩焼きに適しているのではないかと思われますわ」
とのことです。
で、とりあえずエビランのお腹の中に詰まっている大量のエビランの子供を魔法袋に収納してですね、一度おもてなし商会まで戻った僕とファラさんは、そこでエビランの子供を数匹串に刺して塩焼きにしてみました。
待つことしばし。
焼き上がったエビランの子供は、綺麗な赤色になっています。
見た目はまんま、僕が元いた世界のエビです。
で、僕は早速それを食べてみました。
……うん、この殻はまずいな。
僕が元いた世界のエビと比べて、殻が異常に硬いです。
調理する際に、この殻は剥いておかないとダメでしょう。
とはいえ、その殻の下にある身は非常に美味でした。
ぷりっぷりで、塩味がうまみをすごく引き立てています。
マヨ焼きなんかも考えていましたけど、これは素材の味を生かさないともったいないな、といったお味なわけです、はい。
「あらあら……あのエビランの子供が、こんなに美味しくなるなんてびっくりですわ」
ファラさんも、驚いた様子でエビランの子供の塩焼きを食べていました。
なんでも、この殻が異常に硬いもんですから食用として流通していないんだとか。
っていうか、そもそもあの超馬鹿でかいエビランを仕留める方が至難の業だと思うんですけどね……
こうして、ファラさんのおかげで、エビランの子供の塩焼きがオネの弁当に加わることになりました。
あ、ファラさんが仕留めてくれたエビランですが、当然おもてなし商会が買い取ったことにして、相応の金額をお支払いさせていただきました。
「このような臨時収入を頂けるのでしたら、いつでも狩りに行って来ますわよ」
そう言ってニッコリ笑うファラさんですが、この様子だと今後も安定して入手出来そうで何よりです、はい。